【故事成語】
羽翮肉を飛ばす
【読み方】
うかくにくをとばす
【意味】
力の小さいものでも、数多く集まれば大きな力を生むことのたとえ。軽い羽が集まって、重い鳥の体を飛ばすという考えにもとづく。


【英語】
・Many a little makes a mickle(小さなものも数多く集まれば大きなものになる)
・Many hands make light work(多くの人で取り組めば仕事は楽になる)
【類義語】
・積羽沈舟(せきうちんしゅう)
・群軽折軸(ぐんけいせつじく)
・積水成淵(せきすいせいえん)
【対義語】
・焼け石に水(やけいしにみず)
「羽翮肉を飛ばす」の故事
この故事成語は、中国の歴史書『漢書(かんじょ)』「景十三王伝・中山靖王劉勝伝」に出てくる「羽翮飛肉」にもとづいています。『漢書』は、後漢の班固が著した、前漢の歴史書で、全百巻から成る正史です。
「羽翮(うかく)」は、鳥の翼や羽を表す言葉です。「翮」は羽の根もとを指す字で、「羽翮」は鳥が飛ぶための羽全体を表す言葉として用いられます。
「飛肉」は、鳥の肉体を飛ばすことを表します。つまり「羽翮飛肉」は、軽い羽が集まって働き、重い鳥の体を空へ運ぶというたとえです。
『漢書』のこの場面では、前漢の中山靖王劉勝が、建元三年に朝廷へ出て、酒宴の席で音楽を聞きながら涙を流します。武帝が理由を尋ねると、劉勝は、諸侯王が臣下から疑われ、細かなあやを探されて苦しめられている心情を訴えます。
劉勝の言葉の中に、「眾口鑠金,積毀銷骨,叢輕折軸,羽翮飛肉」とあります。これは、多くの人の言葉は金をも溶かし、積み重なったそしりは骨をも砕き、軽いものも集まれば車軸を折り、羽も集まれば肉体を飛ばす、という意味です。
この原文では、細かな力や小さな言葉が積み重なると、よい意味でも悪い意味でも大きな作用をもつことが示されています。とくに劉勝の訴えでは、うわさや非難が積み重なって人を傷つけるおそろしさを述べる文脈に置かれています。
後世の注では、「鳥之所以能飛翔者,以羽翮扇揚之故也」とあります。鳥が飛べるのは、羽翮があおぎ上げるからである、という説明で、羽が一枚だけでなく、多く働いて体を飛ばすという仕組みを明らかにしています。
この考え方は、「叢軽折軸」や「積羽沈舟」とも近い関係にあります。「積羽沈舟」は、軽い羽毛でも多く積もれば舟を沈めるという意味で、小さなものが集まって大きな力をもつことを表します。
また、「群軽折軸」は、軽いものでも多く積めば車軸を折るというたとえです。これらの表現は、どれも「小さいものだから無視してよい」と考えるのではなく、小さなものの積み重なりに注意を向ける言葉です。
唐の詩人李白の詩にも、この発想を受けた表現が出てきます。『分類補注李太白詩集』巻九には「群輕折軸,下沈黃泉;衆毛飛骨,上凌青天」とあり、注の部分では中山靖王劉勝の言葉として「衆口鑠金,積毁銷骨。叢輕折軸,羽翮飛肉」が引かれています。
日本語では、漢文の「羽翮飛肉」を訓読して、「羽翮、肉を飛ばす」と読む形が用いられました。現在の「羽翮肉を飛ばす」は、この読み下しの形から、力の小さなものでも数が集まれば大きな働きをするという故事成語として理解されます。
この故事成語は、努力や協力の力をほめる場面にも使えます。ただし、もとの文脈には、悪いうわさや非難のような小さな害も、積み重なれば人を苦しめるという戒めが含まれています。そのため、よい力を集める大切さと、小さな悪を軽く見ない用心の両方を伝える表現です。
「羽翮肉を飛ばす」の使い方




「羽翮肉を飛ばす」の例文
- 一人一人の寄付は少額でも、全校で集めれば大きな支援となり、羽翮肉を飛ばす力を示した。
- 小さな部品を作る職人たちの技術が集まり、羽翮肉を飛ばすように大きな機械が完成した。
- 地域の清掃活動は短時間の参加でも、人数が増えれば羽翮肉を飛ばす成果を生む。
- 弱いと思われたチームが全員で守備を重ね、羽翮肉を飛ばす働きで強豪校に勝った。
- 毎日の五分の練習も一年続けば、羽翮肉を飛ばすように確かな力となる。
- 多くの小さな改善を積み重ねた会社は、羽翮肉を飛ばす勢いで大きな改革を成し遂げた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・教育部國語推行委員會編『重編國語辭典修訂本』教育部、2021年。
・班固撰、顔師古注『漢書』。
・李白『李太白詩集』。























