【故事成語】
飛んで火に入る夏の虫
【読み方】
とんでひにいるなつのむし
【意味】
明るさにひかれて火へ飛びこむ夏の虫のように、自分から進んで災いや危険の中に入り、身を滅ぼすことのたとえ。


【英語】
・like a moth to a flame(危険なものに強く引き寄せられること)
【類義語】
・自ら墓穴を掘る(みずからぼけつをほる)
・墓穴を掘る(ぼけつをほる)
・愚人は夏の虫(ぐにんはなつのむし)
【対義語】
・明哲保身(めいてつほしん)
「飛んで火に入る夏の虫」の故事
「飛んで火に入る夏の虫」は、夏の夜に蛾などの虫が炎の明るさにひき寄せられ、火の中へ飛びこんで身を焼く姿をもとにした表現です。虫が光に集まる性質は古くから人々の目を引き、この言葉では、その自然の姿が「自分から災いへ向かう人間の行動」のたとえになっています。
古いもとをたどると、中国の史書『梁書(りょうしょ)』(636年ごろ成立、唐の姚思廉撰)に近い表現が出てきます。『梁書』到漑伝には、「如飛蛾之赴火、豈焚身之可吝」とあり、飛ぶ蛾が火へ向かうように、身を焼かれることも惜しまない、という意味を表しています。
この漢文の表現は、もとの場面では、身を惜しまないほどの勢いをたとえる言い方として用いられています。のちには「飛蛾赴火」という形で、自分から死地へ進み、自ら滅びを招く意味に定着し、「飛蛾撲火」「飛蛾投火」などの形でも使われました。
日本語では、現在の形に近い表現が中世の物語に現れます。『源平盛衰記』(鎌倉時代の軍記物語、作者・成立年代未詳)には、「智者は秋の鹿、鳴きて山に入る。愚人は夏の虫、飛んで火に焼く」という形が出てきます。賢い人は危険を避けるが、愚かな人は夏の虫のように自分から危地へ向かう、という対比になっています。
また、『曾我物語(そがものがたり)』(仮名まじり本は南北朝期に成立・流布)にも、「夏の虫、とんでひに入、秋の鹿の笛に心をみだし、身をいたづらになす事」という用例が伝わります。ここでも、夏の虫が火に入る姿は、自分から身をそこなう行動のたとえとして使われています。
その後、「夏の虫飛んで火に入る」「愚人は夏の虫、飛んで火に入る」のような形を経て、明治期以降には、ほぼ現在の「飛んで火に入る夏の虫」という形で広く用いられるようになりました。語順や言い回しは時代によって少し変わりましたが、「光にひかれて火へ向かう虫」と「自分から災いへ向かう人」とを重ねる発想は、一貫して受け継がれています。
現在の「飛んで火に入る夏の虫」は、ただ失敗するというより、危険な場所や不利な状況へ自分から近づいてしまうところに重点があります。相手が待ち構えているのに不用意に出ていく、勝ち目のない争いに自分から入る、悪い結果が見えているのに進んでしまう、という場面にふさわしい表現です。
「飛んで火に入る夏の虫」の使い方




「飛んで火に入る夏の虫」の例文
- 証拠を相手に握られているのにうそを重ねるとは、飛んで火に入る夏の虫だ。
- 強い雨で川が増水しているのに近づくのは、飛んで火に入る夏の虫のような行動だ。
- 相手チームの得意な作戦にわざわざ乗るのは、飛んで火に入る夏の虫と言える。
- 厳しい注意を受けた直後に同じいたずらをするとは、飛んで火に入る夏の虫だ。
- 怪しいもうけ話だと分かっているのに大金を出すのは、飛んで火に入る夏の虫に等しい。
- 準備不足のまま難しい交渉に臨めば、飛んで火に入る夏の虫になりかねない。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・姚思廉撰『梁書』636年ごろ。
・『源平盛衰記』鎌倉時代。
・『曾我物語』南北朝期。
・弘中満太郎・針山孝彦「昆虫が光に集まる多様なメカニズム」『日本応用動物昆虫学会誌』58巻2号、2014年。
・HarperCollins Publishers『Collins Easy Learning Idioms Dictionary』HarperCollins Publishers。























