【ことわざ】
移れば変わる世の習い
【読み方】
うつればかわるよのならい
【意味】
時がたつにつれて、社会も人も物事も変化していくのは世の常だということ。


【英語】
・Times change and we with time(時代は移り、人も時代とともに変わる)
【類義語】
・有為転変は世の習い(ういてんぺんはよのならい)
「移れば変わる世の習い」の語源・由来
「移れば変わる世の習い」は、「移れば変わる」と「世の習い」とを結び付けたことわざです。「移れば変わる」は、時がたつにつれて、社会、人、物事の状態が変化することを表し、「世の習い」は、世間にありがちなことや、世の中の避けがたい道理を意味します。
ここでいう「習い」は、何かを学ぶことではありません。「世の常」「世間の道理」「当たり前に起こること」という意味で使われています。
「世の習い」という言い方の古い用例は、『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立・平安時代中期、紫式部著)の「匂宮(におうのみや)」にあります。そこには「世のならひも常なく見ゆるは」とあり、世の中のありさまが定まらず、変わり続けることを「世のならひ」と表しています。
また、『方丈記(ほうじょうき)』(1212年・鎌倉時代初期、鴨長明著)には、「朝に死に、夕に生るるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける」とあります。人の生死が絶えず入れ替わるさまを水の泡にたとえ、それを世間の避けられない道理として「ならひ」と呼んでいます。
現在とほぼ同じ「移れば変わる世の習い」という形は、中世から近世にかけて伝えられた幸若舞(こうわかまい)の作品にも出てきます。幸若舞は、室町時代に生まれ、長い物語を舞や節とともに語った芸能で、のちには、その台本が「舞の本(まいのほん)」という読み物にもなりました。
幸若舞曲の『信田(しだ)』は、作者不明の作品で、1551年に最初の上演記録があります。幼い信田小太郎とその母が、身内に土地を奪われ、追放されるまでの争いを描いた長編です。
物語の初めで、夫を亡くした小太郎の母は、娘の夫である小山行重に領地を譲ろうとします。これに対して、老臣の浮島太夫は、娘はいずれ他家の者となり、婿も姓の異なる人であるため、親しい間柄がいつまでも続くとは限らないと戒めます。
その忠告の中に、「移れば変はる世の習ひ」とあります。「変はる」「習ひ」は当時の表記で、現代の「変わる」「習い」に当たります。時がたち、立場や利害が変われば、親しかった人の心まで変わることがあるという意味です。
小太郎の母は、この忠告を退け、娘婿に領地を与えます。しかし、やがて娘婿はすべての領地を奪い、小太郎と母を追い出します。「移れば変わる世の習い」という言葉が、その後に起こる人間関係の変化を、あらかじめ言い表していたのです。
同じ表現は、曾我兄弟の敵討ちを題材とした幸若舞曲『十番切(じゅうばんぎり)』にも出てきます。この作品は、幸若舞の演目として「舞の本」に収められ、版本によって広まりました。
物語の終わりでは、傷ついて倒れた曾我十郎が、かつて親しく交わった新田四郎に、自分の首を取るよう求めます。そこに「移れば変はる世の習ひ」とあり、以前は膝を組んで語り合った仲でも、武士として向かい合う立場になれば、相手を討たなければならないという世の変転を嘆いています。
『信田』では親族の心と利害の変化を、『十番切』では親しい者どうしの立場と運命の変化を表しています。どちらも、時と境遇が移れば、人の関係や心も変わり得るという厳しい道理を、「世の習い」と受け止めています。
後には、「移れば変わる」という短い形でも用いられ、社会、風習、暮らし、人の心などが、時とともに変遷することを広く表すようになりました。「移れば変わる世の習い」は、変化を良いとも悪いとも決め付けず、何事もいつまでも同じ姿ではいられないという世の道理を、静かに言い表したことわざです。
「移れば変わる世の習い」の使い方




「移れば変わる世の習い」の例文
- 黒板中心だった授業に端末が取り入れられ、移れば変わる世の習いを実感した。
- 田畑の広がっていた町に高い建物が並ぶ姿は、まさに移れば変わる世の習いだ。
- 連絡の手段が手紙から電子メールへ移ったことにも、移れば変わる世の習いが表れている。
- 長く続く祭りも時代に合わせて形を変え、移れば変わる世の習いを示している。
- かつて栄えた商店街が静かになったのを見ると、移れば変わる世の習いを思わずにはいられない。
- 働き方や家族のあり方が変化するのも、移れば変わる世の習いの一つだ。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・笹野堅編『幸若舞曲集 本文』第一書房、1943年。
・荒木繁・池田廣司・山本吉左右編注『幸若舞 1』平凡社、1979年。
・大和田建樹『謡曲評釈 第八輯』博文館、1908年。
・鴨長明『方丈記』1212年。























