【故事成語】
枝、本より大なれば必ず披く
【読み方】
えだ、もとよりだいなればかならずひらく
【意味】
枝が幹より大きくなると木が裂けるように、下位の者や末端の勢力が上位の者や根本を上回ると、全体が危うくなること。


【英語】
・the tail wagging the dog(本来は下位のものが、重要なものや大きなものを動かしている状態)
【類義語】
・尾大掉わず(びだいふるわず)
・末大なれば必ず折る(すえだいなればかならずおる)
・本末転倒(ほんまつてんとう)
【対義語】
・本立ちて道生ず(もとたちてみちしょうず)
「枝、本より大なれば必ず披く」の故事
「枝、本より大なれば必ず披く」は、中国前漢の歴史書『史記(しき)』に出てくる「枝大於本,脛大於股,不折必披」という言葉にもとづきます。『史記』は、前漢の司馬遷が著した中国最初の正史で、前91年ごろに完成したと考えられています。
この言葉は、『史記』巻一百七「魏其武安侯列伝」に出てきます。「魏其武安侯列伝」は、前漢の政治家である魏其侯の竇嬰、武安侯の田蚡、そして灌夫らをめぐる対立を描いた列伝です。
物語の背景には、前漢の武帝の時代に起こった有力者どうしの争いがあります。魏其侯は灌夫を弁護し、丞相である武安侯田蚡は、灌夫の横暴を強く非難しました。
朝廷で意見を求められた韓安国は、魏其侯の言い分にも、丞相の言い分にも一理あると述べました。その中で、灌夫が悪人と交わり、民をおかし、財産を積み、潁川で横暴にふるまい、宗室をしのぐような存在になっているという丞相側の主張を取り上げます。
そのたとえとして示されたのが、「枝大於本,脛大於股,不折必披」です。枝が幹より大きく、すねが太ももより大きければ、折れなければ必ず裂ける、という意味です。
「枝」は、木の幹から分かれて出る部分です。一方、「本」は、枝葉に対する木の幹、また根本を表す言葉です。
「披」は、現代では「ひらく」という読みで使うことが多い漢字ですが、古い漢字の意味には「わける」「さく」も含まれます。そのため、この句の「披く」は、木が左右に開く、つまり裂けることとして読むのが大切です。
この句は、ただ木の形を述べたものではありません。幹より枝が大きくなるという不自然な姿を、上に立つ者よりも下の者の勢力が強くなりすぎる危うさに重ねています。
同じ発想は、『春秋左氏伝』昭公十一年の「末大必折,尾大不掉」にも出てきます。末が大きすぎれば折れ、尾が大きすぎれば動かせないというたとえで、下位の勢力が大きくなりすぎると、上位の者が制御しにくくなることを表します。
日本語では、原文の「枝大於本」を「枝、本より大なれば」と読み下し、「不折必披」を「必ず披く」と受けて、故事成語として用いる形になりました。木の幹と枝のたとえを通して、根本を弱くしたまま末端だけが大きくなる危険を戒める言葉です。
「枝、本より大なれば必ず披く」の使い方




「枝、本より大なれば必ず披く」の例文
- 支店だけが独自に大きな権限を持つと、枝、本より大なれば必ず披くという状態になりかねない。
- 部員の意見は大切だが、部長の役割が弱すぎれば、枝、本より大なれば必ず披くとなる。
- 会社の基本方針を決めないまま各部署が勝手に動けば、枝、本より大なれば必ず披くのたとえどおり混乱する。
- 家の決まりを親が何も示さず、子どもだけで物事を進めると、枝、本より大なれば必ず披くような危うさが生まれる。
- 新しい事業を広げる前に本部の体制を整えなければ、枝、本より大なれば必ず披くという結果になる。
- 枝、本より大なれば必ず披くというように、根本を支える力が弱いまま末端だけを大きくしてはいけない。
主な参考文献
・司馬遷『史記』前漢、前91年ごろ成立。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・白川静著『字通 普及版』平凡社、2014年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『春秋左氏伝』。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster。























