【ことわざ】
えせ者の空笑い
【読み方】
えせもののそらわらい
【意味】
いかがわしい者が、おかしくもないのに相手の機嫌をとるために笑うこと。


【英語】
・a forced laugh(無理に作った笑い)
・an insincere smile(本心からでない笑顔)
【類義語】
・曲者の空笑い(くせもののそらわらい)
・追従笑い(ついしょうわらい)
・愛想笑い(あいそわらい)
「えせ者の空笑い」の語源・由来
「えせ者の空笑い」は、「えせ者」と「空笑い」を組み合わせた言い方です。いかがわしい者が、おかしくもないのに、相手の機嫌をとるために笑うことを表します。
「えせ」は「似非」とも書き、見かけはそれらしくても、実は本物ではないことを表します。また、備えているはずの性質や技量が欠けていること、さらに、一筋縄ではいかないしたたかさを表す場合もあります。
「えせ者」は、古くから人に対して使われてきた言葉です。『落窪物語』(10世紀後半成立・平安時代中期、作者未詳)には「えせ物」の用例があり、身分や性質が劣る者、とるに足りない者という意味で使われています。
また、『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』(1120年ごろ成立か・平安時代後期、編者未詳)には、「ゑせ者にこそ候めれ」という形が出てきます。ここでは、本物の鬼神ではなく、見せかけだけの者という意味で使われています。
さらに、日蓮遺文「国府尼御前御書」(1275年・鎌倉時代、日蓮著)には、「日本第一のゑせ者」という用例があります。この段階では、「えせ者」が一筋縄ではいかない者、不敵な者を指す意味にも広がっていました。
一方、「空笑い」は、心からおかしいと思っていないのに笑うことです。『太平記(たいへいき)』(14世紀後半ごろ成立・南北朝時代、作者未詳)には「空笑」という用例があり、だましてごまかす場面で、作り笑いをする意味に近い形で使われています。
「空」は、ここでは「中身がない」「本当ではない」という意味を添えます。そのため「空笑い」は、喜びやおもしろさから自然に出る笑いではなく、表面だけの笑いを指す言葉になります。
このことわざに近い言い方として、「追従笑い」があります。「追従笑い」は、人の機嫌をとるように笑うことを指し、1803年の俳諧にも用例があります。
「えせ者の空笑い」は、単なる作り笑いをいうだけではありません。相手に気に入られようとしたり、本心を隠したりする、信用しにくい笑いを戒める言葉です。
この言い方の底には、笑顔がいつも正直な心を表すとは限らない、という見方があります。外側はにこやかでも、内側に計算やごまかしがある場合、その笑いは「えせ者の空笑い」と受けとめられます。
現在では、むやみに人を疑うための言葉ではなく、不自然なお世辞笑いや、真意を隠した笑いを見抜くためのことわざとして使います。笑顔そのものを否定するのではなく、心のない笑いには注意が必要だという教えを含んでいます。
「えせ者の空笑い」の使い方




「えせ者の空笑い」の例文
- 部長の前でだけ急に愛想よく笑う彼の態度は、えせ者の空笑いのように見えた。
- 本心を隠してごまかすための笑顔なら、えせ者の空笑いと言われても仕方がない。
- えせ者の空笑いにだまされず、相手の言葉と行動をよく見て判断したい。
- 都合の悪い質問をされたときの彼の笑いは、えせ者の空笑いそのものだった。
- ただのお世辞で場を取りつくろうとする笑いには、えせ者の空笑いに近い危うさがある。
- えせ者の空笑いをするより、失敗を正直に認めたほうが信頼される。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。























