【ことわざ】
口と財布は締めるが得
【読み方】
くちとさいふはしめるがとく
【意味】
余計なおしゃべりと、むだな出費は慎んだほうがよいということ。


「口と財布は締めるが得」の語源・由来
「口と財布は締めるが得」は、「口」と「財布」という、開けば中のものが外へ出る二つのものを並べたことわざです。口を開けば言葉が出て、財布を開けば金が出るため、どちらも必要のないときには閉じておくほうがよいという、生活上の知恵を表しています。
この場合の「口」は、食べ物を取り入れる器官だけでなく、口に出す言葉や発言を表しています。「口を締める」は、実際に唇を閉じる様子から、言わなくてもよいことを口にしないという意味へとつながっています。
一方の「財布」は、金銭を入れて持ち歩く入れ物です。「財布の口を締める」という言い方は、支出を切り詰め、むだ遣いをしないことを表します。このことわざでは、財布を物理的に閉じる動作と、お金をむやみに使わない心構えとが重ねられています。
「財布」という名称は、江戸時代前期の『新色五巻書(しんしきごかんじょ)』(1698年、西沢一風著)や、江戸時代中期の『傾城禁短気(けいせいきんたんき)』(1711年、江島其磧著)のころには、すでに使われていました。ただし、当時は金銭などを入れる物を「巾着」や「鼻紙袋」と呼ぶことも多く、「財布」という名称がいつでも一般的だったわけではありません。
これらの作品に「口と財布は締めるが得」という一文が直接出てくるということではありません。しかし、「財布」という物とその名称が江戸時代の暮らしに根づくにつれて、財布を開けることが金を使うことを、締めることが倹約することを表すたとえも、分かりやすいものになりました。
このことわざの巧みなところは、「締める」という一つの動詞を、口と財布の両方に働かせている点です。口については発言を控えることを、財布については出費を控えることを表し、言葉と金銭という二つの大切なものを同時に管理するよう教えています。
不用意な発言は、人を傷つけたり、秘密を漏らしたり、自分の信用を落としたりすることがあります。また、必要を考えずに金を使い続ければ、暮らしに困る原因となります。この二つを「多弁」と「浪費」として一組にし、どちらも控えるのが得策だと説いているのです。
この言葉は、特定の人物の逸話や一つの事件を語るものではなく、日々の経験から得た教訓を、対句の形にまとめたものです。「得」は、黙っていれば必ず利益が増えるという意味ではなく、失言による争いや浪費による損失を避けることが、結局は自分のためになるという意味です。
昭和後期には、人生の教訓を集めた書物にも、現在と同じ「口と財布は締めるが得」の形で収められており、今日まで暮らしの戒めとして伝えられています。何も話さず、何も買わないことを勧めるのではなく、言葉も金も、出す前によく考えることの大切さを説くことわざです。
「口と財布は締めるが得」の使い方




「口と財布は締めるが得」の例文
- 友人の秘密を話さず、衝動買いもしない彼は、口と財布は締めるが得をよく守っている。
- 口と財布は締めるが得というので、宴会では余計な発言を控え、予定外の二次会にも参加しなかった。
- 母は旅行前の家族に、口と財布は締めるが得だから、軽はずみな約束とむだな買い物には気をつけるよう言った。
- うわさ話と衝動買いで何度も後悔した彼は、口と財布は締めるが得という教えを身にしみて理解した。
- 新入社員は、口と財布は締めるが得を心に留め、社内の秘密を漏らさず、経費も慎重に使った。
- 地域の集まりでは、口と財布は締めるが得と心得て、無責任な発言を避け、寄付の額も暮らしに合わせて決めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『世界大百科事典 改訂新版』平凡社、2007年。
・谷津三雄・出地弘・松本好正・中村一「川柳にみられる歯科医療風俗史(第2報)」『日本歯科医史学会会誌』第4巻第1号、日本歯科医史学会、1976年。
・貝塚ひろし『まんがでわかる故事・ことわざ 人生ふれあい編』ゴマブックス、2018年。























