【ことわざ】
蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむ
【読み方】
くもはおおかぜのふくまえにすをたたむ
【意味】
災難が起こる前に、その前触れを察して用心し、被害を未然に防ぐことのたとえ。


【英語】
・Prevention is better than cure.(問題が起こってから直すより、前もって防ぐほうがよい)
【類義語】
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
・備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
【対義語】
・泥棒を見て縄を綯う(どろぼうをみてなわをなう)
「蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむ」の語源・由来
このことわざのもとにあるのは、蜘蛛が強い風の吹く前に、張っていた巣を片付けて身を守るという言い伝えです。蜘蛛の行動から天候の変化を読み取り、災いが迫る前に備える姿になぞらえた表現です。
文献上の古い用例は、江戸時代後期の心学書『続鳩翁道話(ぞくきゅうおうどうわ)』(1836年刊、柴田鳩翁述、柴田武修聞書)にあります。この書物は、身近な出来事やたとえを用いて、日々の心得を分かりやすく説いた『鳩翁道話』の続編です。
『続鳩翁道話』には、「蜘蛛は大風ふく前には巣をたゝみ」とあります。さらに、狐も雨が降る前に穴を塞ぐと言い伝えられていると述べ、災いを「未然にそのわざわひを用心いたします」と説いています。
ここでは、蜘蛛と狐の行動を、単なる天気の話として紹介しているのではありません。動物でさえ災いが来る前に身を守るのだから、人も先々のことを考え、悪い事態が起こる前に用心しなければならない、という教えに結びつけています。
もとの言い回しでは、「蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたみ、狐は雨の降る前に穴を塞ぐ」と、二つの動物の行動を並べています。「大風」と「雨」、「巣」と「穴」、「たたむ」と「塞ぐ」を対応させ、災いに先回りして備えることの大切さを、分かりやすい一組のたとえで表しています。
「巣をたたむ」の「たたむ」は、布を折り重ねることだけを指すのではありません。ここでは、蜘蛛が張っていた網を巻き取ったり、取り払ったりして、大風に備える様子を表しています。
今日では、前半の「蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむ」だけでも、独立したことわざとして用いられています。一方、狐の行動まで続ける長い形も伝わっており、江戸時代の用例に近い言い回しを残しています。
この言い伝えは、すべての蜘蛛が必ず大風を予知するという、生物学上の法則を述べたものではありません。身近な生き物の行動と天候の変化とを結びつけてきた、昔の人々の暮らしの知恵を背景としています。
やがて、自然の中の出来事を表す言い回しから、人間の行動を戒めるたとえへと意味が広がりました。単に日頃から準備するというだけでなく、危険が近づいている兆しを見逃さず、まだ間に合ううちに手を打つことを教えることわざとして定着したのです。
「蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむ」の使い方




「蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむ」の例文
- 台風の接近を知った漁師は、蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむとばかりに、早々と船を港へ戻した。
- 蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむという教えに従い、家族は大雨になる前に避難の準備を整えた。
- 学校は蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむの心構えで、強風の予報が出ると校庭のテントを片付けた。
- 会社は蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむように、被害が出る前から情報管理の仕組みを見直した。
- 農家は蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむと考え、嵐が来る前に収穫できる作物を畑から運び出した。
- 地域の人々は蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたむの精神で、川が増水する前に土のうを積んだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典 全三巻』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・柴田鳩翁述、柴田武修聞書『続鳩翁道話』1836年。
・松田采菜「蜘蛛の民俗知識―天候予知と医療民俗に焦点をあてて―」『東アジア文化研究』第3号、2018年。























