【ことわざ】
国に盗人、家に鼠
【読み方】
くににぬすびと、いえにねずみ
【意味】
どのような物事にも、その内部に入り込んで害を及ぼすものがあるというたとえ。


【類義語】
・獅子身中の虫(しししんちゅうのむし)
「国に盗人、家に鼠」の語源・由来
「国に盗人、家に鼠」の直接のもとは、兼好法師が鎌倉時代末期に著した随筆『徒然草(つれづれぐさ)』の第九十七段にあります。『徒然草』は、全二百四十三段からなる随筆集で、人の生き方や世の中の道理を、短い文章の中に鋭く描いた作品です。
第九十七段には、「其の物につきて、そのものを費やしそこなふもの数を知らず。身に蝨あり、家に鼠あり、国に賊あり」とあります。あるものに取りつき、そのものを弱らせたり損なったりするものは数え切れないほどあり、人の身には蝨(しらみ)、家には鼠、国には賊(ぞく)がいる、という意味です。
この並びでは、害を受ける範囲が「身」から「家」へ、さらに「国」へと大きくなっていきます。蝨は人の体に取りついて血を吸い、鼠は家の中に住み着いて食べ物や道具を荒らし、賊は国の内側で人々の財産や秩序を損ないます。規模は異なっても、害を与えるものが対象の内部にいるという点は共通しています。
第九十七段は、そのあとに「小人に財あり。君子に仁義あり。僧に法あり」と続きます。兼好は、目に見える害虫や賊だけでなく、財産、仁義、仏法のように本来は価値のあるものも、それにとらわれすぎれば、持ち主の生き方を損なうことがあるとして並べました。身近な鼠と国の賊は、何かが内側からそのものを食い尽くすという、この段全体の考えを分かりやすく示す例になっています。
後に、「家に鼠あり、国に賊あり」の二つが取り出され、「あり」が省かれました。また、「賊」は、日常的な言葉である「盗人」に置き換えられ、「家に鼠、国に盗人」という簡潔なことわざになりました。原文と同じく、家から国へ広げる形は現在も用いられています。
江戸時代後期のことわざ集『たとへづくし―譬喩尽』(1786年、松葉軒東井編)にも、「家に鼠、国に盗人」の形が伝わっています。この書物は、当時までに使われていたことわざや古い言い回しを集めたもので、この表現が近世には、一まとまりのことわざとして扱われていたことが分かります。
一方、後世には、語順を逆にした「国に盗人、家に鼠」も定着しました。「家に鼠、国に盗人」は小さな家から大きな国へと範囲を広げ、「国に盗人、家に鼠」は大きな国から身近な家へと範囲を縮めます。語順は違っても、どのような場所にも、それを内側から害するものが潜んでいるという意味は同じです。
ここでいう「盗人」は、外から忍び込んで物を盗む者だけを指すのではありません。国や組織の一員でありながら、その立場を利用して不正を働き、全体に損害を与える者も含みます。「国に盗人、家に鼠」は、目立つ外敵だけでなく、内部に潜む害にも注意しなければならないという戒めを伝えています。
「国に盗人、家に鼠」の使い方




「国に盗人、家に鼠」の例文
- 国に盗人、家に鼠というように、国庫を守る役人が公金を着服していた。
- 会社の機密を社員が外部へ漏らし、国に盗人、家に鼠とはこのことだと皆が憤った。
- 国に盗人、家に鼠で、部員の一人が共同の道具を無断で持ち出していた。
- 自治会費の不正使用が発覚し、住民は国に盗人、家に鼠という言葉を思い出した。
- 守る側の職員が倉庫の品を盗んでいたとは、まさに国に盗人、家に鼠である。
- 国に盗人、家に鼠は、組織を害する者がその内部に潜むことへの戒めを表す。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松葉軒東井編、宗政五十緒校訂『たとへづくし 譬喩尽』同朋舎出版、1979年。
・兼好法師『徒然草』鎌倉時代末期成立。























