【ことわざ】
臭い物に蓋をする
【読み方】
くさいものにふたをする
【意味】
悪事や醜聞など、知られると都合の悪いことを、根本から解決せず、一時しのぎに隠そうとするたとえ。


【英語】
・sweep something under the carpet.(問題や不正を人に知られないように隠す)
・sweep something under the rug.(違法なこと、恥ずかしいこと、誤ったことを隠す)
【類義語】
・その場しのぎ(そのばしのぎ)
【対義語】
・膿んだ物は潰せ(うんだものはつぶせ)
「臭い物に蓋をする」の語源・由来
「臭い物に蓋をする」は、悪臭を放つ物の入った器に蓋をし、臭気が外へ漏れないようにする動作から生まれたことわざです。蓋をすれば一時的に臭いを感じにくくなりますが、臭いの元となる物は器の中に残ったままであり、原因そのものを取り除いたことにはなりません。ここから、悪事や醜聞などを根本から正さず、外部に知られないよう、表面だけを取り繕うことのたとえとなりました。
古い用例は、『世話尽(せわづくし)』(1656年・江戸時代前期、皆虚編)に出てきます。この書物は、『世話焼草(せわやきぐさ)』とも呼ばれる五巻の俳諧(はいかい)の手引書であり、世間で使われていた俗語やことわざなどを集めたものです。第二巻にはことわざが収められており、「臭物に蓋をする」に当たる言い回しも、この書物の用例として伝わっています。
『世話尽』が刊行された17世紀半ばには、実際の悪臭を防ぐ動作だけでなく、人に知られたくない悪事や不名誉な事柄を隠す意味でも、この言い回しはすでに世間の言葉として使われていました。「蓋をする」という目に見える動作と、「都合の悪い事実を覆い隠す」という行為とが重ねられ、意味を直感的に理解しやすい表現として広まったと考えられます。
江戸時代には、浄瑠璃(じょうるり)『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』(1749年・江戸時代中期、竹田出雲・三好松洛・並木千柳合作)にも用例があり、庶民の会話を生かした作品の中で使われるほど定着していました。ことわざ集に記録された段階から、芝居の言葉としても通じる段階へと広がっていたことがうかがえます。
また、江戸で親しまれたいろはかるたでは、「く」の札に「くさいものには蓋」という形が用いられました。動詞の「する」を省いた短い形ですが、「臭い物には蓋をして隠せ」という意味がすぐに伝わるため、かるたの読み札に適した簡潔な言い回しとなっています。
幸田露伴の『東西伊呂波短歌評釈(とうざいいろはたんかひょうしゃく)』(明治42年、幸田露伴著)にも、東、すなわち東京の札として、「くさいものには蓋」と記されています。西の札である「くさいものに蝿」と対比し、東の札は、臭く腐った物を覆い隠すことを表すものとして論じています。
このように、古くは「臭物に蓋をする」、かるたでは「くさいものには蓋」といった形が使われ、現在では「臭い物に蓋をする」という形が広く定着しています。今では、隠すことを勧める言葉というよりも、問題に向き合わず、その場だけをごまかそうとする態度を批判したり、戒めたりするときに用いるのが一般的です。
「臭い物に蓋をする」の使い方




「臭い物に蓋をする」の例文
- 学校は備品がなくなった原因を調べず、臭い物に蓋をするように問題を伏せた。
- 会計上の誤りを公表しない方針は、臭い物に蓋をするだけで根本的な解決にはならない。
- 壁の水漏れ跡を壁紙で隠しても、臭い物に蓋をすることにしかならない。
- 家族は長年の不和について話し合わず、臭い物に蓋をするように避け続けた。
- 会社が社員の訴えを握り潰せば、臭い物に蓋をする体質だと批判されるだろう。
- 失敗を報告せずに数字を書き換えるのは、臭い物に蓋をする卑怯な行為だ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・皆虚編『世話尽』西田庄兵衛、1656年。
・竹田出雲・三好松洛・並木千柳『双蝶々曲輪日記』1749年。
・幸田露伴『東西伊呂波短歌評釈』1909年。
・Diana Lea・Jennifer Bradbery編『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第10版』Oxford University Press,2020.























