【故事成語】
隗より始めよ
【読み方】
かいよりはじめよ
【意味】
大きな事を行うには、まず身近なことから始めよという意味。転じて、物事は言い出した者から実行せよという意味にも用いる。


【英語】
・practice what you preach(人に説くことを自分でも実行する)
【類義語】
・千里の道も一歩から(せんりのみちもいっぽから)
・高きに登るは必ず低きよりす(たかきにのぼるはかならずひくきよりす)
・死馬の骨を買う(しばのほねをかう)
「隗より始めよ」の故事
「隗より始めよ」は、中国の『戦国策(せんごくさく)』燕策に出てくる話に由来します。『戦国策』は、前漢のころ、劉向が戦国時代の遊説家たちの言葉や策を国ごとに整理した書物で、「先ず隗より始めよ」という話も、その中の燕に関する故事として伝わりました。
話の舞台は、中国の戦国時代の燕(えん)という国です。燕では国が乱れたすきに隣国の斉(せい)から攻められ、国が大きく傷つきました。新しく即位した昭王(しょうおう)は、国を立て直すためにすぐれた人材を集めたいと考え、郭隗(かくかい)に相談します。
郭隗は、まず名馬を求めた昔の君主のたとえ話をしました。ある君主が、千里を走る名馬を買い求めさせたところ、使いの者は死んだ馬の骨を五百金で買って帰ります。君主は怒りますが、使いの者は「死んだ馬の骨でさえ高く買うと知れ渡れば、生きた名馬を持つ者は必ず売りに来る」と答え、やがて三頭の名馬が集まったといいます。
このたとえを受けて、郭隗は昭王に「今、王が本当に士を招きたいなら、まず隗より始めよ」と進めました。これは、郭隗のような者でさえ厚く用いられると世に知れれば、郭隗よりすぐれた人物は、遠い道のりをいとわず燕へ来るだろう、という意味です。
昭王はその言葉に従い、郭隗のために邸宅を整え、師として敬いました。すると、すぐれた人々が争うように燕へ向かったと伝わります。このため、この故事は、まず身近な者を大切にして大きな目的へのきっかけを作る、という意味をもつようになりました。
同じ系統の話は、後の『十八史略(じゅうはっしりゃく)』にも収められました。『十八史略』は中国の歴史を簡潔にまとめた入門書で、日本でも室町時代以後に伝わり、江戸時代から明治時代にかけて漢文教材として広く読まれました。こうした学習の場を通じて、「先ず隗より始めよ」という形が日本語の教養表現として定着していったといえます。
日本語の近代文学にも、すでにこの表現は用いられています。明治27年、泉鏡花の『義血侠血』には「隗より始めつ」の形が出てきます。また、夏目漱石の『虞美人草』(1907年)にも「乞う隗より始めよか」という用例があります。もとの故事では「賢者を招くために、まず身近な者を厚く扱う」という意味でしたが、日本語ではしだいに「言い出した者からまず実行せよ」という意味でもよく使われるようになりました。
「隗より始めよ」の使い方




「隗より始めよ」の例文
- 新しい読書会を作りたいなら、隗より始めよで、まず自分が一冊紹介することにした。
- 部長は環境活動を呼びかける前に、隗より始めよと考えて自分の机から紙の無駄を減らした。
- 地域の祭りを復活させる話では、隗より始めよとして、言い出した町内会が最初の準備を引き受けた。
- 会社が人材を集めたいなら、隗より始めよで、身近な社員を大切にする姿勢を示す必要がある。
- クラスのあいさつ運動は、隗より始めよの通り、提案した班が朝の校門に立つことから始まった。
- 大きな募金計画も、隗より始めよで、まず家族や友人に趣旨を丁寧に伝えるところから進めた。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・劉向編『戦国策』。
・曾先之『十八史略』。























