【ことわざ】
神様にも祝詞
【読み方】
かみさまにものりと
【意味】
分かりきっていると思われることでも、黙っていては相手に通じないので、はっきりと言葉にして伝えるべきだというたとえ。


【類義語】
・言わぬことは聞こえぬ(いわぬことはきこえぬ)
【対義語】
・言わぬが花(いわぬがはな)
「神様にも祝詞」の語源・由来
「神様にも祝詞」は、すべてを見通すと思われる神様であっても、願いを祝詞として申し上げなければ、その内容は通じないという考えから生まれたことわざです。「神様にも」の「にも」には、神様ほどの存在でさえ、という強調が込められています。
祝詞(のりと)は、神社の祭典で神職が神様に奏上する言葉です。神饌(しんせん:神前に供える食べ物)や幣帛(へいはく:神前に供える品)を捧げ、神徳をたたえて感謝を述べ、守りや恵みを願う内容をもつのが一般的です。
「のりと」の「のり」は、神聖な言葉を声に出して告げる「宣る」に関係します。祝詞は、心の中で願うだけのものではなく、祭りの場で一定の言葉として唱え、神様に届けるものでした。
祝詞の古い姿は、日本神話にも出てきます。『古事記(こじき)』(712年・奈良時代、太安万侶撰録)の天の石屋の段では、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が石屋戸に隠れ、世の中が暗くなったため、八百万の神々が天の安河原に集まります。
神々は鏡や勾玉(まがたま)などを用意し、天照大御神を外へ迎え出すための神事を行います。その中で、天児屋命(あめのこやのみこと)が「布刀詔戸言(ふとのりとごと)」を申し上げたと記されています。
この場面では、祝詞は神事に添えられた飾りではありません。神様に働きかけ、再び光を取り戻すために、鏡や舞などとともに欠かせない役割を担う言葉として描かれています。
『日本書紀(にほんしょき)』でも、天児屋命は祈りの言葉を述べ、神事をつかさどる存在として描かれています。こうした神話を通して、祝詞を声に出して神様へ申し上げることの重みが伝えられてきました。
平安時代には、朝廷の制度や儀式をまとめた『延喜式(えんぎしき)』(905年編纂開始、927年完成)に、祭儀で用いる二十七編の祝詞が収められました。これらの詞章は、七世紀から九世紀初めにかけて形づくられ、神宮や神社などで唱える言葉として整えられたものです。
『延喜式』の祝詞には、豊作を願う祈年祭(きねんさい)をはじめ、宮中や神社のさまざまな祭りで読み上げる言葉が記されています。古くから、願いや感謝は心に思うだけでなく、整った言葉として神前に申し上げるものでした。
また、日本には、言葉には力が宿り、口に出すことによってその力が働くという言霊(ことだま)の考えがあります。神前で願い事を具体的な言葉として唱える習わしも、言葉を発することそのものを大切にする考えと結び付いています。
このことわざは、古代の祝詞そのものを引用した表現ではなく、神様へ願いを申し上げる習わしを、日常の人間関係に移したたとえといえます。神様にさえ言葉が必要なのだから、人と人との間では、なおさら希望や事情をはっきり伝えなければならないという教えです。
ただし、何でも思ったままに口にすればよいという意味ではありません。相手が知っているはずだと決めつけず、伝えるべき事柄を分かりやすい言葉で申し出ることの大切さを説いています。
このように、「神様にも祝詞」は、神前で願いを言葉にして奏上する古い習わしを背景に、察してもらうことだけを当てにせず、自分の思いや用件をきちんと伝えるべきだと教えることわざです。
「神様にも祝詞」の使い方




「神様にも祝詞」の例文
- 神様にも祝詞というから、遠足で必要な道具は家族にはっきり伝えておこう。
- 相手が分かっているはずだと思い込まず、神様にも祝詞の心で希望を言葉にした。
- 神様にも祝詞という通り、仕事の期限や手順は前もって明確に伝える必要がある。
- 長年の友人同士でも、神様にも祝詞と考え、困っている事情を率直に話した。
- 町内会は神様にも祝詞を心掛け、避難訓練の日時と集合場所を全世帯へ知らせた。
- 家族だから察してくれるとは限らないと、祖母は神様にも祝詞を引いて話し合いを勧めた。
主な参考文献
・尚学図書編『故事・俗信ことわざ大辞典』小学館、1982年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・太安万侶撰録『古事記』712年。
・藤原時平・藤原忠平ほか撰『延喜式』927年。























