【ことわざ】
月とすっぽん
【読み方】
つきとすっぽん
【意味】
二つのものが、少し似ているようでいて、実際には比べものにならないほど大きく違うことのたとえ。


【英語】
・as different as chalk and cheese(まったく性質が違う)
・as different as night and day(昼と夜ほど違う)
【類義語】
・雲泥の差(うんでいのさ)
・提灯に釣鐘(ちょうちんにつりがね)
・雪と墨(ゆきとすみ)
【対義語】
・似たり寄ったり(にたりよったり)
・大同小異(だいどうしょうい)
「月とすっぽん」の語源・由来
「月とすっぽん」は、漢字では「月と鼈」と書きます。月もすっぽんも丸い形をもつ点では似ていますが、夜空で清らかに輝く月と、泥の中にすむすっぽんとでは、受ける印象が大きく違います。そのため、少し似ているところがあっても、実際には比べものにならないほど差がある、というたとえになりました。
すっぽんは、カメ目スッポン科の淡水にすむ爬虫類(はちゅうるい)で、甲はほぼ円形で軟らかいという特徴があります。また、近世の関西方言では、甲羅が円形であることから、すっぽんを「丸(まる)」とも呼びました。すっぽんが月と並べて考えられた背景には、この「丸い形」という共通点があったと考えられます。
古い用例として、浄瑠璃(じょうるり)『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』(1734年・江戸時代中期、竹田出雲作)第三段に、「お月様と泥亀(スッポン)ほどちがふた」という形が出てきます。この作品は、人形浄瑠璃の時代物で、1734年に大坂の竹本座で初演されました。ここでは、月とすっぽんを並べることで、二つのものの隔たりがたいへん大きいことを表しています。
このころの言い方では、現在の「月とすっぽん」だけでなく、「お月様とすっぽん」「お月様と鍋蓋」のような形も使われました。洒落本(しゃれぼん)『当世気とり草(とうせいきどりぐさ)』(1773年・江戸時代中期、金金先生著)には、「お月さまとなべふた程の違い」という用例があり、丸い形をもつものどうしを比べて、大きな違いを表す発想が広がっていたことが分かります。
また、「月鼈(げつべつ)」という二字の言い方もあります。随筆『文会雑記』(1782年)には、「李の文を韓の文と比したるは余りの月鼈なり」という用例があり、二つの文章の優劣の差があまりに大きい、という意味で使われています。ここでは、月とすっぽんの対比が、人物や家柄だけでなく、文章や才能の差を表す言葉としても用いられていることがうかがえます。
反対の並びである「鼈と月」も、江戸時代後期に使われました。小林一茶の俳諧日記『七番日記(しちばんにっき)』(1810〜1818年の記録)には、「スッポンと月と並ぶや角田川」という句が出てきます。順序が逆でも、すっぽんと月を並べることで、似ているようでまったく違うものを対照させる考え方は同じです。
一方で、「すっぽん」は、もとは「素盆(すぼん)」、または「朱盆(しゅぼん)」であったとする説もあります。盆も丸い形をしていますから、月と盆を比べる言い方が変化して「月とすっぽん」になったと考える説です。ただし、広く受け入れられている説明では、月とすっぽんはどちらも丸いが、清らかに見える月と泥の中を動くすっぽんとでは大きく違う、という対比が中心になります。
このことわざは、単に「違う」というだけでなく、「比べること自体が無理なほど差がある」という強い意味をもちます。そのため、人に対して使うと、相手を低く見る響きが出ることがあります。昔は、自分や身内をすっぽんにたとえてへりくだり、相手を月にたとえて敬う形でも使われましたが、現代では、相手を傷つけないよう、場面を選んで用いることが大切です。
「月とすっぽん」の使い方




「月とすっぽん」の例文
- 同じ材料で作った料理でも、祖母の味と私の料理では月とすっぽんほどの差がある。
- 完成した模型を友人の作品と比べると、細かい仕上げが月とすっぽんだった。
- 昔の小さな駅と新しく建て替えられた駅では、広さも便利さも月とすっぽんだ。
- 練習を重ねた先輩の演奏は、始めたばかりの自分とは月とすっぽんだった。
- 同じ写真でも、プロが撮ったものと私が急いで撮ったものでは月とすっぽんの出来だ。
- 古い辞書と新しい辞書を比べると、収録されている言葉の数が月とすっぽんだった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・竹田出雲作『蘆屋道満大内鑑』1734年初演。
・金金先生著『当世気とり草』安原平助、1773年。
・小林一茶『七番日記』1810〜1818年。
・EDP編『英辞郎 on the WEB』アルク。























