【ことわざ】
鬼瓦にも化粧
【読み方】
おにがわらにもけしょう
【意味】
醜いものも、化粧をすれば、かなり美しく見えるというたとえ。


【英語】
・Makeup can work wonders(化粧には見た目を大きくよくする効果がある)
【類義語】
・馬子にも衣装(まごにもいしょう)
「鬼瓦にも化粧」の語源・由来
「鬼瓦」は、屋根の最も高い所にある大棟(おおむね)や、傾斜に沿って延びる降り棟などの端を飾る瓦です。古くは、魔よけのために鬼の顔をかたどったものが多く、その恐ろしくいかつい姿から、こわく醜い顔のたとえにも用いられるようになりました。
鬼瓦と人の顔を結び付ける発想は、古い芸能にも出てきます。室町時代末から近世初めに伝わる狂言『鬼瓦(おにがわら)』では、都から国元へ帰ることになった大名が、寺の屋根にある鬼瓦を見て、故郷に残してきた妻の顔にそっくりだと思い、泣き出します。
この狂言には、鬼瓦の恐ろしい顔つきと人の容貌とを重ね合わせ、笑いを生み出す趣向があります。「鬼瓦」が、単なる屋根の部材だけでなく、いかつい顔を思わせるものとして受け取られていた文化的な背景がうかがえます。
「鬼瓦にも化粧」という言い方の古い用例は、『毛吹草(けふきぐさ)』(1645年・江戸時代前期、松江重頼編)巻六に収められています。『毛吹草』は、俳諧(はいかい)の作法や季節の言葉、古くから伝わる言い回し、各地の名物、俳諧の句などを集めた全七巻の書物です。序文には1638年の日付があり、1645年に刊行された後も、俳諧を作る際に便利な書物として広く読まれ、版を重ねました。
その巻六には、俊安の句として、「朝霜は鬼瓦(オニカハラ)にも化粧(ケシャウ)かな」とあります。朝の霜が屋根を白く覆い、恐ろしい顔をした鬼瓦まで美しく飾っている様子を、化粧に見立てた句です。
この句で化粧を施しているのは、人ではなく朝霜です。「化粧」には、紅や白粉(おしろい)で人の顔を美しくする意味だけでなく、物の表面を美しく飾る意味もあるため、白い霜を鬼瓦の化粧に見立てることができます。
一方、「鬼瓦」そのものは、江戸時代になると、「こわく醜い顔」を表す言葉としても使われました。『軽口頓作(かるくちとんさく)』(1709年・江戸時代中期)の「あるものじゃ・よい衆の奥に鬼がはら」という用例では、鬼瓦が、人の容貌を表すたとえになっています。
こうして、屋根の鬼瓦に霜が降りて美しく飾られるという具体的な情景と、鬼瓦をいかつい顔のたとえとする用法とが結び付き、「どれほど見栄えのしないものでも、化粧を施せば美しく見える」という意味で使われるようになりました。現在では、人の化粧だけでなく、古い建物や物品を塗り直したり飾ったりして、見栄えをよくする場合にも用いることができます。
類義語の「馬子にも衣装」は、身なりを整えれば、誰でも立派に見えることを表します。それに対して、「鬼瓦にも化粧」は、鬼瓦といういかついものと化粧とを取り合わせ、化粧や装飾による外見の変化を、より強く印象付けたことわざです。
「鬼瓦にも化粧」の使い方




「鬼瓦にも化粧」の例文
- 古びた人形も、顔を塗り直して衣装を整えると、鬼瓦にも化粧で見違えるようになった。
- 殺風景だった店も、壁を明るく塗って花を飾れば、鬼瓦にも化粧で親しみやすく見える。
- 色あせた鬼面に鮮やかな彩色を施すと、鬼瓦にも化粧で立派な舞台道具に生まれ変わった。
- 傷だらけの木箱も美しい布で包めば、鬼瓦にも化粧で贈り物らしく見える。
- 古い会議室は照明と壁紙を替えただけで、鬼瓦にも化粧と呼びたくなるほど印象が変わった。
- 荒々しい顔つきの悪役も丁寧に舞台化粧をすると、鬼瓦にも化粧で不思議な美しさを帯びた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・松江重頼編、新村出校閲、竹内若校訂『毛吹草』岩波書店、1943年。
・松江重頼編『毛吹草』1645年。
・Cambridge University Press『Cambridge Academic Content Dictionary』。























