【ことわざ】
鬼に瘤を取られる
【読み方】
おににこぶをとられる
【意味】
一見すると損害を受けたようでありながら、実際にはかえって利益を得ることのたとえ。


【英語】
・a blessing in disguise(初めは不運に思えても、後に幸運だったと分かること)
【類義語】
・怪我の功名(けがのこうみょう)
「鬼に瘤を取られる」の語源・由来
「鬼に瘤を取られる」は、「瘤取話(こぶとりばなし)」と呼ばれる昔話に由来します。顔に瘤のある老人が、山中で鬼や天狗の酒盛りに出会い、踊りを喜ばれた結果、瘤を取られるという話です。失ったように見えた瘤が、実は本人を長年悩ませていた邪魔なものだったため、損失が思いがけない利益に変わるというたとえが生まれました。
この話の古い形は、『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』(13世紀前半成立・鎌倉時代前期、編者未詳)巻一の「鬼に瘤取らるる事」に出てきます。『宇治拾遺物語』は、貴族や僧侶から庶民までを扱った百九十七話を収める説話集で、この一編は、現在の「こぶ取り爺さん」につながる古い話として知られています。
物語の主人公は、右の顔に大柑子(おおこうじ:大きなミカンの一種)ほどの瘤がある翁です。翁は、人々に交じって暮らしにくいため、山で薪を取って生活していました。ある日、激しい雨風に遭い、山中の空洞になった木へ入って、夜を明かそうとします。
夜になると、さまざまな姿をした大勢の鬼が集まり、火をたいて酒を飲み、歌や舞を始めました。初めは恐ろしがっていた翁も、鬼たちの楽しそうな様子に心を引かれ、思い切って姿を現して舞います。その舞があまりにおもしろかったため、鬼たちは翁を気に入り、次の酒宴にも必ず来るよう命じました。
鬼たちは、翁が約束を破らないよう、何かを質草(しちぐさ:返す約束の保証として預かる物)に取ろうと相談します。そして、翁の顔の瘤を大切な「福の物」だと思い、それを預かれば、翁は必ず戻るだろうと考えました。翁も瘤を惜しむふりをしたため、鬼たちはますます価値のあるものだと思い、瘤をねじって取ってしまいます。
ところが、瘤を取られても痛みはなく、長年顔についていた瘤は、跡も残さず消えました。翁にとって、鬼に大切な物を奪われたような出来事は、実際には、悩みの種を取り除いてもらう幸運となったのです。
その話を聞いた、左の顔に瘤のある隣の翁も、同じように瘤を取ってもらおうと山へ向かいます。しかし、踊りが不器用だったため、鬼たちは喜びませんでした。鬼は、前の翁から預かっていた瘤を返すつもりで、その瘤を隣の翁の反対側の顔につけてしまい、隣の翁は左右に二つの瘤を持つことになります。物語は、「ものうらやみはせまじきことなりとか」と結ばれ、他人の幸運をむやみにうらやんでまねをしてはいけないと戒めています。
この昔話全体では、隣人をうらやむことへの戒めが、結末の教訓となっています。一方、「鬼に瘤を取られる」ということわざは、最初の翁の身に起きた出来事に焦点を当てています。鬼に物を取られるという一見不幸な出来事が、本人にとっては、長年の悩みから解放される利益になった点が、現在の意味につながっています。
江戸時代前期の笑話集『醒睡笑(せいすいしょう)』(1623年序、安楽庵策伝著)にも、この昔話の類話があります。巻一は、「『鬼に瘤を取られた』といふこと何ぞ」と書き始め、目の上に大きな瘤を持つ禅門(ぜんもん:仏門に入った男性)が、山中の辻堂(つじどう)で天狗たちの酒宴に出会う話を載せています。
禅門は天狗たちの前で踊り、次も来るという約束の質として、瘤を取られます。しかし、禅門は邪魔な瘤がなくなったので、「宝をまうけたる心地」がして、故郷へ帰りました。『醒睡笑』のこの用例では、「鬼に瘤を取られた」という言い方と、損に見えて実は得をしたという意味との結び付きが、はっきりと表れています。
古い形には、「鬼に瘤を取らる」「鬼に瘤取らるる事」があり、「鬼に瘤」とも略します。現在の「鬼に瘤を取られる」は、同じ内容を現代の言い方で表した形です。こうして、昔話の中で老人が邪魔な瘤を思いがけず取り除かれた出来事から、損失に思えたことが、かえって利益になるということわざが定着しました。
「鬼に瘤を取られる」の使い方




「鬼に瘤を取られる」の例文
- 希望していた係を外されたが、そのおかげで大会の練習に専念でき、鬼に瘤を取られる結果となった。
- 古い倉庫を失ったことで広い作業場へ移転できたのは、鬼に瘤を取られるような幸運だった。
- 故障した車を手放したところ維持費が大きく減り、鬼に瘤を取られるとはまさにこのことだった。
- 担当業務を減らされた彼は、その時間で新しい技術を学び、鬼に瘤を取られる形で成長の機会を得た。
- 長年続けていた企画が中止になったものの、よりよい計画を立て直せたので、鬼に瘤を取られることになった。
- 一見不利な契約解除だったが、さらに条件のよい取引先が見つかり、会社にとっては鬼に瘤を取られる結果となった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・三木紀人・浅見和彦・中村義雄・小内一明校注『新日本古典文学大系42 宇治拾遺物語 古本説話集』岩波書店、1990年。
・『宇治拾遺物語』13世紀前半成立。
・安楽庵策伝『醒睡笑』1623年序。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary』。























