【ことわざ】
車を馬の前に置く
【読み方】
くるまをうまのまえにおく
【意味】
物事を進める順序が逆になり、本来先にすべきことを後回しにすることのたとえ。


【英語】
・put the cart before the horse.(物事を誤った順序で行う)
【類義語】
・本末転倒(ほんまつてんとう)
「車を馬の前に置く」の語源・由来
「車を馬の前に置く」は、英語のことわざ「put the cart before the horse.」と同じ情景を、日本語で表した言葉です。ここでいう「車」は自動車ではなく、馬に引かせて人や荷物を運ぶ荷車を指します。通常は馬を前につなぎ、その後ろに車を付けますが、車を馬より前に置けば、馬は車を正しく引くことができません。この不合理な配置から、本来先にすべきことと、後にすべきことを取り違えるという意味が生まれました。
英語では、16世紀前半から記録のある古いことわざです。イギリスの劇作家ジョン・ヘイウッドは、当時のことわざを集めた『A Dialogue Conteinyng the Nomber in Effect of All the Prouerbes in the Englishe Tongue.』(1546年・テューダー朝期)に、「Or set the cart before the horse.」と記しています。「車を馬の前に置く」という、現在とほぼ同じ形です。
この一節は、ある男が家計を顧みず外で金を使い、物事を逆さまにしてしまう様子を述べる場面に出てきます。単に荷車の置き方を語っているのではなく、正しい生活の順序や道理を乱す行いのたとえとして、すでに使われていました。また、ことわざを集めた作品に収められていることから、ヘイウッドが新しく作ったというよりも、それ以前から人々の間で使われていた言い回しを取り入れたものと考えられます。
その後、ジョージ・プットナムの『The Arte of English Poesie.』(1589年・エリザベス朝期)にも、このことわざが出てきます。プットナムは、文や出来事の前後を入れ替え、後に来るべきものを先に置く表現を論じる中で、「英語のことわざでは、車を馬の前に置くという」と述べています。ここでは、日常の行動だけでなく、言葉や考えの順序が逆になることを表す例として用いられています。
ウィリアム・シェイクスピアの『King Lear』(1608年初版)では、道化が「馬を車が引いているときくらい、ろばにも分かるのではないか」という意味の言葉を口にします。王リアが娘に権力を譲ったため、本来従う側であった娘が王を動かす側になったという立場の逆転を、馬と車の関係で表しています。
初期の英語では「set the cart before the horse.」という形があり、後には「put the cart before the horse.」が広く使われるようになりました。「set」も「put」も、ここでは物をある位置に置くという意味であり、表現の芯は変わりません。日本語の「車を馬の前に置く」も、この具体的な情景をほぼそのまま伝えています。
現在では、単に手順を一つ間違えた場合よりも、必要な準備とその結果、原因と結果、土台となる事柄とその後の事柄を、逆に扱う場面で用います。試験を受ける前から合格後の予定を決めたり、計画を立てる前に道具を買いそろえたりするなど、先へ進むための条件が整っていないのに、その先の作業を始めることを戒めることわざです。
「車を馬の前に置く」の使い方




「車を馬の前に置く」の例文
- 実験を始める前に結論を書いてしまうのは、車を馬の前に置くようなものだ。
- 参加人数を確かめずに大きな会場を予約するとは、車を馬の前に置く計画だ。
- 商品の安全性を調べる前に広告を出すのは、車を馬の前に置くやり方である。
- 部屋の寸法を測らずに家具を注文した弟は、車を馬の前に置いてしまった。
- 仕事の内容を決める前に担当者を集めても、車を馬の前に置くことになりかねない。
- 大会への出場が決まらないうちから祝勝会を予約するのは、車を馬の前に置くというものだ。
主な参考文献
・瀬戸賢一・投野由紀夫編集主幹『プログレッシブ英和中辞典 第5版』小学館、2012年。
・Jennifer Speake編『Oxford Dictionary of Proverbs』Oxford University Press.
・John Heywood『A Dialogue Conteinyng the Nomber in Effect of All the Prouerbes in the Englishe Tongue.』1546.
・George Puttenham『The Arte of English Poesie.』1589.
・William Shakespeare『King Lear.』1608.























