【故事成語】
狐其の尾を濡らす
【読み方】
きつねそのおをぬらす
【意味】
物事の最後になって失敗すること。また、初めはたやすく進んでも、終わり近くになると難しくなること。


【英語】
・There’s many a slip ’twixt cup and lip.(物事が終わるまでには、思わぬ失敗が起こりうる)
【類義語】
・九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく)
【対義語】
・終わり良ければすべて良し(おわりよければすべてよし)
「狐其の尾を濡らす」の故事
この表現のもとになったのは、中国古代の『易経(えききょう)』です。『易』または『周易(しゅうえき)』とも呼ばれる書物で、その原型は紀元前8世紀ごろにまとまり、六十四の卦(け)を示す本文と、その意味を解く文章から成り立っています。
「狐其の尾を濡らす」に結び付く言葉は、六十四番目、すなわち最後の卦である「未済(びせい)」の卦辞(かじ)に出てきます。「未済」は、まだ川を渡り終えていないことから、物事が完成していない状態を表す名です。
その冒頭には、「未済は、亨る。小狐汔んど済らんとして、其の尾を濡らす。利しき攸无し」とあります。「小さな狐が、もう少しで川を渡り終えようとしたところで尾を濡らしてしまい、よい結果を得られない」という意味です。
狐は川の向こう岸に近づいていますが、まだ渡り切ってはいません。目的をほとんど達成したように思えても、最後まで成し遂げなければ成功とはいえないことを、小狐の姿によって表しています。
卦辞の意味を解く彖伝(たんでん)には、狐が尾を濡らして利益を得られない理由が「不続終也」と記されています。これは、物事を続けて最後まで完成させることができないという意味であり、現在の「最後の段階で失敗する」という使い方に直接つながります。
もとの卦辞は、狐が尾を上げていたことや、疲れて尾を下げたことまでは述べていません。日本語でこの表現を説く際には、小さな狐が初めは尾を上げ、注意深く川を進んだものの、終わりに近づいて疲れ、尾を濡らして無事に渡れなくなる場面として、より具体的に説明されます。
原文では「小狐」と書かれていますが、日本語では「小」を省いた「狐其の尾を濡らす」という形で定着しました。「其」という漢文調の字を残しながら、川を渡る狐の具体的な姿から、仕事や計画を完成直前で失敗することへと意味が広がっています。
したがって、この故事成語は、単に物事の終わりが難しいというだけではありません。成功が目前に見えるときほど力を尽くし、最後の仕上げまで慎重に取り組まなければならないという戒めも含んでいます。
「狐其の尾を濡らす」の使い方




「狐其の尾を濡らす」の例文
- 難しい問題を解き終えたのに、解答欄を一つずらして書いたのは、まさに狐其の尾を濡らす失敗だ。
- 棚をほとんど組み立てながら、最後のねじを強く締めすぎて板を割ったのは、狐其の尾を濡らすような結果だった。
- 友人たちは送別会を丁寧に準備したが、開始時刻を本人に伝え忘れ、狐其の尾を濡らすことになった。
- 新商品の開発を終えた会社が、表示の点検を怠って発売を延期したのは、狐其の尾を濡らす例といえる。
- 地域の祭りは順調に進んでいたが、後片付けの手順を決めておらず、最後に混乱したのは狐其の尾を濡らす出来事だった。
- 決勝戦の終盤まで先頭に立ちながら、ゴール直前で気を緩めて逆転された選手は、狐其の尾を濡らす結果となった。
主な参考文献
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・今井宇三郎『新釈漢文大系24 易経 中』明治書院、1993年。
・『周易』紀元前8世紀ごろ原型成立。























