【故事成語】
靴を度りて足を削る
【読み方】
くつをはかりてあしをけずる
【意味】
本来合わせるべき物事の順序を取り違え、大切なものを傷つけてまで、二次的な条件や決まりに無理に合わせることのたとえ。


【英語】
・a Procrustean approach.(個々の事情を無視し、無理に一つの型へ合わせるやり方)
【類義語】
・本末転倒(ほんまつてんとう)
・削足適履(さくそくてきり)
・角を矯めて牛を殺す(つのをためてうしをころす)
【対義語】
・臨機応変(りんきおうへん)
「靴を度りて足を削る」の故事
「靴を度りて足を削る」のもとになった表現は、中国・前漢の思想書『淮南子(えなんじ)』(紀元前2世紀、淮南王劉安のもとで編纂)の「説林訓(ぜいりんくん)」にあります。『淮南子』は、劉安が多くの学者を集めて編ませた書物で、道理・政治・人間の行いなど、幅広い事柄について論じています。
もとの一節では、まず「骨肉相愛」と述べ、血を分けた親子や兄弟は、本来、愛し合うものだと説きます。しかし、悪意のある者が間に入り、事実でない悪口を吹き込めば、父と子が互いを疑い、危険な関係に陥ることがあると続けています。
そのあとに、「夫所以養而害所養」とあります。これは、人を養い守るためにあるものが、かえって守るべき人を害してしまうという意味です。手段が本来の役目を忘れ、目的そのものを傷つけるという逆転を戒めています。
この逆転を分かりやすく示すために、『淮南子』は「譬猶削足而適履、殺頭而便冠」とたとえます。足を削って履物に合わせ、頭をそいで冠に合わせるようなものだ、という意味です。
履物は、本来、足を守り、歩きやすくするために作るものです。それなのに、履物が小さいからといって足を削れば、守るべき足そのものを傷つけてしまいます。同じように、冠は頭にかぶるものなのに、その冠に合わせるために頭を傷つけるなら、道具と人との関係が完全に逆になります。
ここで問題となるのは、単に手順を間違えることだけではありません。人のための制度、目的のための手段、内容を入れるための形式など、従う側にあるものを優先し、そのために、本来大切にすべきものを損なうことを戒めています。
この一節のすぐあとには、小さな害を取り除こうとして大きな災いを招き、わずかな利益を求めて大きな利益を損なうという趣旨の言葉も続きます。そのため、このたとえには、本末を取り違えることに加え、小さな都合を優先した結果、より大切なものを失うという教訓も含まれています。
やがて中国では、原文の「削足而適履」を四字にまとめた「削足適履」という形が定着しました。「履」は履物や靴を指し、小さな靴に合うように足を削ることから、古い決まりや既成の型にこだわり、現実の事情を無視して無理に合わせることを表します。
「削足適履」には、「刻足適屨」「截趾適屨」「削足就履」「刖足適屨」など、足やつま先を傷つけて履物に合わせることを表す異なる形もあります。表記は違っても、外側の型に合わせるために、本来守るべきものを損なうという教訓は共通しています。
日本語の「靴を度りて足を削る」は、同じたとえを、「まず靴の寸法をはかり、それに合うように足を削る」という順序で言い表したものです。「度る」は「はかる」と読み、長さや大きさを測る意味をもちます。また、古典の「履」を、現在分かりやすい「靴」に置き換えた形になっています。
こうして、「靴を度りて足を削る」は、足よりも靴を、人よりも制度を、目的よりも手段を重んじる誤りを戒める言葉となりました。決まりや形式は、本来、人や目的を助けるためにあるのであり、その関係を逆にしてはならないという教訓を伝える故事成語です。
「靴を度りて足を削る」の使い方




「靴を度りて足を削る」の例文
- 利用者に合わせて制度を改めるべきなのに、制度に合わせて利用者を排除するのは、靴を度りて足を削るようなものだ。
- 大会の規則を守るために選手の安全を軽んじるなら、靴を度りて足を削ることになる。
- 予算の数字だけを整えて必要な支援まで打ち切る方針は、靴を度りて足を削るに等しい。
- 書式に収めるため研究の重要な結果を削るのでは、靴を度りて足を削るというほかない。
- 会社の古い慣例に社員の生活を無理に合わせる姿勢は、靴を度りて足を削る発想である。
- 子どもの個性を無視して全員を同じ型にはめれば、靴を度りて足を削る結果を招く。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・中華民国教育部『成語典 2020』。
・楠山春樹著『淮南子 下 新釈漢文大系62』明治書院、1988年。
・戸川芳郎・木山英雄・沢谷昭次訳『淮南子』平凡社〈中国古典文学大系6〉、1974年。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前2世紀。























