【ことわざ】
暮れぬ先の提灯
【読み方】
くれぬさきのちょうちん
【意味】
手回しよく準備すること。また、準備が早すぎて、かえって間が抜けていることのたとえ。


【類義語】
・小舟の宵拵え(こぶねのよいごしらえ)
【対義語】
・火事あとの火の用心(かじあとのひのようじん)
「暮れぬ先の提灯」の語源・由来
「暮れぬ先」とは、日がまだ暮れていないうちという意味です。「暮れぬ先の提灯」は、周囲が明るく、まだ灯りを必要としない時刻から、提灯に火をともす様子を表しています。提灯を使う時機よりも早く準備する姿から、手回しのよさや、準備が早すぎる間の抜けた様子をたとえるようになりました。
提灯(ちょうちん)は、内部に灯火を入れ、紙などで周囲を覆った照明器具です。初期には、木の枠に紙を張った箱形の物や、籠に紙を張った携帯用の物が使われました。天正・文禄年間に当たる1573年から1596年ごろには、竹ひごを輪にして紙を張り、上下に折り畳める形が作られるようになりました。
折り畳める提灯は、持ち運びや収納に便利で、江戸時代には人々の間に広く普及しました。夜道を照らす道具としてだけでなく、家や店の印、祭礼の飾り、合図などにも用いられ、当時の暮らしに身近な道具となりました。
夜の通行に提灯が欠かせなかったことは、江戸時代末期の記録からもうかがえます。文久3年(1863年・江戸時代末期)には、武家や町人が夜に一人で通行するとき、提灯を持たずに歩くことを禁じる町触(まちぶれ)が出されました。夜道では足元や周囲を照らす必要があり、提灯は安全に歩くための実用品でした。
その一方で、日がまだ高く、辺りが明るいうちに提灯へ火を入れても、灯りとしての役目を十分に生かすことはできません。必要になる前から用意しているため、用心深く、手回しがよいとも受け取れますが、あまりに早ければ、無駄なことをしているようにも映ります。この二つの受け取り方が、そのまま現在の二つの意味につながっています。
そのため、このことわざは、単に「準備が早い」とほめる場合にも使えますが、多くは「そこまで早く用意しなくてもよい」「まだ必要になるかどうかも分からない」という軽い皮肉を込めて使います。準備そのものを否定するのではなく、準備する時機が早すぎる点を問題にする表現です。
「提灯」は「提燈」とも書きます。「灯」は「燈」に代わって広く用いられる字で、古い表記を生かした文章では「暮れぬ先の提燈」と記す場合もありますが、現在は「暮れぬ先の提灯」という表記が一般的です。
このことわざは、特定の人物の逸話から生まれたものではなく、提灯を使う時刻と、準備を始める時機とのずれを、日常生活の中で分かりやすく表したものです。必要な備えは早めに行うべきですが、早ければ早いほどよいとは限らないという、人々の経験が込められています。
「暮れぬ先の提灯」の使い方




「暮れぬ先の提灯」の例文
- 合格発表の前に制服を注文するとは、暮れぬ先の提灯もいいところだ。
- 開催日さえ決まっていない祭りの飾りを作り始めるのは、暮れぬ先の提灯ではないか。
- 旅行先を決める前から土産物を入れる箱を用意するとは、暮れぬ先の提灯だ。
- 来年の会議資料まで準備している彼の手回しのよさは、まさに暮れぬ先の提灯だった。
- まだ採用の返事も来ていないのに引っ越しの手配をするのは、暮れぬ先の提灯だろう。
- 結婚の話も出ていない二人のために式場を探すとは、いくら何でも暮れぬ先の提灯だ。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。























