【ことわざ】
旨い物は宵に食え
【読み方】
うまいものはよいにくえ
【意味】
うまい食べ物は味が落ちる前に早く食べるのがよい、転じて、利益になることは事情が変わらないうちに早く手に入れたほうがよいというたとえ。


【英語】
・Strike while the iron is hot(好機があるうちにすぐ行動せよ)
【類義語】
・善は急げ(ぜんはいそげ)
・思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
【対義語】
・言いたい事は明日言え(いいたいことはあすいえ)
「旨い物は宵に食え」の語源・由来
「旨い物は宵に食え」は、うまい食べ物を惜しんで残しておくと、味が落ちてしまうという生活の実感から生まれたことわざです。ここでいう「旨い」は味がよいことを表し、「宵」は、日が暮れて間もないころから夜中までの時間を指します。
このことわざのもとの意味は、食べ物を最もよい状態で味わうなら、翌日まで残さず、その夜のうちに食べたほうがよいというものです。そこから、利益になることや、よい機会は、事情が変わらないうちに早く手に入れたほうがよいという教えに広がりました。
古い用例として、浮世草子『椀久二世』(1691年・江戸時代前期)上に「今時はうまき物は宵(ヨヒ)にといふ事口近し」とあります。「口近し」は、だれでもよく口にする、話題にしやすいという意味をもつ言葉です。
この用例では、すでに「うまき物は宵に」という言い方が、人々の口に上る身近な表現として使われています。つまり、このことわざは江戸時代前期には、食べ惜しみを戒めるだけでなく、よいものを早く取るという感覚を伴って広まっていたといえます。
江戸時代中期の人形浄瑠璃『三浦大助紅梅靮(みうらのおおすけこうばいたづな)』(1730年・江戸時代中期、長谷川千四・文耕堂合作)にも、「旨い物は宵に食へ」という形が出てきます。この作品は、享保15年に大坂竹本座で初演された時代物の浄瑠璃です。
その用例は、「望みの通りに三百両、右(ミギ)から左(ヒダリ)猿が餠、旨い物は宵に食へ」という一節の中にあります。ここでは、金をすぐ動かす「右から左」という言い方と並び、得になるものを早く扱う発想の中で「旨い物は宵に食へ」が使われています。
このように、もとの食べ物の話から、金銭や利益、機会の扱い方へ意味が広がっていったことが分かります。うまい食べ物が時間とともに味を失うように、よい話や利益も、時機を逃すと値打ちを失うことがあるという考え方です。
また、江戸期には「旨い物は宵に食え」と「言いたい事は明日言え」を合わせ、身になることはすぐ行い、損につながりやすい言葉は時間をおいて考えるという対比で用いる例も多くありました。よいことは早く、腹立ちや不用意な発言は急がない、という暮らしの知恵が対になっています。
近代以後も、このことわざは食べ物の話にとどまらず、機会を逃さない教えとして使われ続けました。昭和53年の辻嘉一『味のいろは歌留多』にも、宵のうちに食べればおいしいものを、惜しんで食べ残すと味を悪くしてしまうという使い方が出ています。
現在の「旨い物は宵に食え」は、単に食いしんぼうをすすめる言葉ではありません。よいもの、得になるもの、今なら生かせる機会を、ためらいすぎて失わないようにという、時機を大切にすることわざとして用いられています。
「旨い物は宵に食え」の使い方




「旨い物は宵に食え」の例文
- 買ったばかりの和菓子は今日が一番おいしいので、旨い物は宵に食えと思って家族で分けた。
- 旅行先で見つけた限定の弁当を迷っているうちに売り切れ、旨い物は宵に食えという言葉を思い出した。
- 条件のよい申し出を受けたのだから、旨い物は宵に食えで早めに返事をしたほうがよい。
- 新鮮な魚をもらった父は、旨い物は宵に食えと言って、その日の夕食に刺身を出した。
- せっかくの機会を先延ばしにして逃すくらいなら、旨い物は宵に食えの心で動くべきだ。
- 季節限定の品を後で買おうとして売り切れた経験から、彼女は旨い物は宵に食えを大切にしている。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『椀久二世』1691年。
・長谷川千四・文耕堂『三浦大助紅梅靮』1730年初演。
・辻嘉一『味のいろは歌留多』1978年。
・Merriam-Webster, 『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.























