【慣用句】
寝耳に水
【読み方】
ねみみにみず
【意味】
まったく思いがけない出来事や知らせに、突然驚くことのたとえ。予想も心の準備もしていなかったため、何が起こったのかすぐには分からないほど驚くこと。


【英語】
・A bolt from the blue.(青空から突然落ちる稲妻のような、思いがけない出来事)
【類義語】
・青天の霹靂(せいてんのへきれき)
・藪から棒(やぶからぼう)
・足元から鳥が立つ(あしもとからとりがたつ)
「寝耳に水」の語源・由来
「寝耳に水」は、「寝耳に水の入るごとし」という古い言い方が短くなってできた表現です。「寝耳」は、眠っているときの耳、または眠っているあいだに音や言葉が耳に入ることを表します。『宇津保物語』(970〜999年ごろ成立、平安時代中期)には、「うちやすみ給へるねみみに聞きて、おどろきながら」とあり、眠っているところへ物音や知らせが入り、驚くという「寝耳」の働きが早くから使われていました。
「寝耳に水」の古い形として、江戸時代前期の『太閤記(たいこうき)』(1625年刊)巻十三に、「城中寝耳に水の入たるが如く、驚きあへりつつ」という用例があります。城の中の人々が、思いがけない事態に接して、眠っている耳に大水の音が飛びこんできたかのように驚き合う、という文脈で使われています。ここでは、ただ水が耳に入るという小さな出来事ではなく、大水や洪水のような大きな異変の音を、眠っているときに突然聞く驚きがもとになっています。
この表現のもとの意味は、眠っているうちに大水が出て、その流れの大きな音を耳にしたときのようだ、ということでした。眠っている人は、ふだんよりも身構えていません。その状態で急に激しい水音を聞けば、何が起こったのか分からず、ひどく驚きます。この「無防備なときに、突然大きな異変を知る」という感覚が、現在の「予想外の知らせに驚く」という意味へつながっています。
その後、江戸時代前期の狂歌集『吾吟我集(ごぎんわがしゅう)』(1649年)には、「夢覚す板屋の時雨もらね共寝耳に水の入心ちする」という用例が出てきます。ここでは、板屋に降る時雨が雨漏りしているわけではないのに、夢から覚めた心地が「寝耳に水の入心ち」にたとえられています。この用例では、「水の音を聞く」という理解だけでなく、「耳の中へ水が入る」という受け止め方も強まっていることが分かります。
このように、はじめは「眠っている耳に大水の音が入るような驚き」を表していた言い方が、しだいに「眠っている耳へ水が入るような驚き」とも理解されるようになりました。「耳に入る」という言い方には、音や知らせを聞くという意味があります。その一方で、「耳の中に水が入る」とも受け取れるため、後には「寝耳に擂粉木(すりこぎ)」のような、耳に物が入るという発想をもつ表現も生まれました。
現在の「寝耳に水」は、もとの大水や水音の場面から離れ、突然の知らせや予想外の出来事に驚く意味で広く使われます。驚きの対象は、必ずしも悪いことだけではありません。急な転勤、突然の受賞、思いがけない閉店の知らせなど、よいことにも悪いことにも使えます。ただし、心の準備がまったくできていないところへ飛びこんでくる知らせ、という点が大切です。
この慣用句のおもしろさは、驚きそのものを説明するのではなく、眠っている耳と水という、ありそうでありにくい組み合わせで表すところにあります。眠りの中では、人は外の出来事にすぐ反応できません。そこへ急に水音や水の感覚が入りこむからこそ、「突然で、わけが分からず、あわてる」という気持ちがよく表されます。そのため「寝耳に水」は、単なる「驚いた」よりも、予想の外から急に来た知らせへの動揺を、短く印象深く伝える表現として定着しています。
「寝耳に水」の使い方




「寝耳に水」の例文
- 父の転勤が急に決まり、家族にとって寝耳に水の知らせだった。
- 楽しみにしていた遠足の中止は、児童たちには寝耳に水だった。
- 長年続いた店が今月で閉まると聞き、町の人々は寝耳に水の思いだった。
- 友人が海外へ引っ越すと突然知り、私は寝耳に水で言葉が出なかった。
- 会社の合併発表は、多くの社員にとって寝耳に水の出来事だった。
- 応募した作品が賞に選ばれたという連絡は、本人にも寝耳に水だった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『宇津保物語』970〜999年ごろ。
・小瀬甫庵『太閤記』1625年。
・『吾吟我集』1649年。























