【ことわざ】
一も取らず二も取らず
【読み方】
いちもとらずにもとらず
【意味】
二つのものを両方とも得ようとして、結局どちらも手に入れられないこと。欲張りすぎて失敗することのたとえ。


【英語】
・fall between two stools(二つのねらいのどちらも達成できない)
【類義語】
・虻蜂取らず(あぶはちとらず)
・二兎を追う者は一兎を得ず(にとをおうものはいっとをえず)
【対義語】
・一石二鳥(いっせきにちょう)
・一挙両得(いっきょりょうとく)
「一も取らず二も取らず」の語源・由来
「一も取らず二も取らず」は、「一」と「二」という数を用いて、二つのものを同時に取ろうとする心を表したことわざです。ここでの「一」「二」は、単に数字を数えるだけでなく、目の前にある二つの利益、二つの選択肢、二つの目的を指す形で使われています。二つをともに得ようとして力が分かれ、かえってどちらも得られない、という教訓を短くまとめた表現です。
古い用例としては、『毛吹草(けふきぐさ)』(1645年刊、江戸時代前期、松江重頼編)巻二に、「一もとらず二もとらず」という形が伝わります。『毛吹草』は俳諧(はいかい)の作法書・撰集で、巻二には俳諧や連歌に関わる言葉のほか、世話(俚諺)にあたる言い方が多く収められています。
『毛吹草』の中でこの表現が仮名交じりの「一もとらず二もとらず」として出てくることは、江戸時代前期には、すでに人々の間で通じる言い回しとして扱われていたことを示しています。俳諧では、日常の口ぶりや世間で使われる言葉を生かすことがあり、このことわざも、生活の中の失敗や欲張りを簡潔に言い表す言葉として受け取られていたと考えられます。
表記については、古い用例では「とらず」と仮名で書かれていますが、現代の見出しでは「取らず」と漢字を用いる形が一般的です。意味の中心は表記が変わっても同じで、「一つ目も取れず、二つ目も取れない」という形から、欲張って両方をねらった結果、どちらも失うことを表します。
このことわざに近い言い方として「虻蜂取らず」があります。「虻蜂取らず」は、二つのものを同時に取ろうとして両方とも得られないこと、また欲を出しすぎて失敗することを表します。さらに、「二兎を追う者は一兎を得ず」も、同時に二つの物事をしようとすると、どちらも成功しないという意味で近いことわざです。
一方で、「一石二鳥」や「一挙両得」は、一つの行動で二つの利益や効果を得ることを表します。「一も取らず二も取らず」が、二つを追って両方を失う失敗を言うのに対して、これらは一つの行動が二つの成果につながる成功を表します。そこに、このことわざの反対の発想がはっきり出ています。
つまり、「一も取らず二も取らず」は、二つを同時に得ようとすることそのものをすべて悪いとする言葉ではありません。力や時間が足りないのに、欲張ってどちらにも手を出すと、どちらも形にならないという戒めです。自分の力に合った順序を考え、一つずつ確実に進める大切さを教えることわざです。
「一も取らず二も取らず」の使い方




「一も取らず二も取らず」の例文
- 習い事を二つ同時に始めたが、どちらの練習も足りず、一も取らず二も取らずになった。
- 文化祭の係と部活動の大会準備を一人で抱え込み、一も取らず二も取らずの結果に終わった。
- 父は副業をいくつも増やそうとして、本業まで乱れ、一も取らず二も取らずを心配された。
- 友人関係でどちらにもよい顔をしすぎると、信頼を失って一も取らず二も取らずになりかねない。
- 新商品の開発で安さと高級感を同時に無理に追いすぎ、一も取らず二も取らずの商品になった。
- 受験勉強では難問集ばかりに手を出さず、基礎を固めなければ一も取らず二も取らずになる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松江重頼編『毛吹草』1645年。
・Cambridge University Press『Cambridge English Dictionary』。























