【ことわざ】
言わぬ事は聞こえぬ
【読み方】
いわぬことはきこえぬ
【意味】
はじめから言葉にして伝えなければ、相手に理解させることはできないという意味。あとで知らなかったと言われないよう、念を押しておくときに用いる。


【英語】
・Speak up(はっきり意見を言う)
【類義語】
・恥を言わねば理が聞こえぬ(はじをいわねばりがきこえぬ)
【対義語】
・言わぬは言うにまさる(いわぬはいうにまさる)
・言わぬが花(いわぬがはな)
「言わぬ事は聞こえぬ」の語源・由来
「言わぬ事は聞こえぬ」は、何も言わなければ相手の耳に届かず、したがって理解もされない、というごく身近な道理から生まれたことわざです。「聞こえぬ」は、ただ音として聞こえないことだけでなく、相手に分かってもらえないという意味まで含んでいます。
このことわざが伝えているのは、黙っていることへの批判ではなく、必要なことは初めに言っておくべきだという教えです。あとで「聞いていない」「知らなかった」と言われないように、あらかじめ念を押す場面で用いられます。
古い用例として重要なのは、井原西鶴『好色一代女』(1686年・江戸時代前期、井原西鶴作)に出てくる形です。この作品は、嵯峨の好色庵に隠れ住む老女が、訪ねてきた二人の若者に自分の身の上を語る趣向で書かれた浮世草子です。
『好色一代女』には、「はじめからいはぬ事は聞(キコ)えぬといふ」という形が出てきます。ここでは「はじめから」という言葉が添えられており、あとになってからではなく、最初に言っておくことの大切さがはっきり示されています。
この古い形では、「言わぬ」が歴史的仮名遣いで「いはぬ」と書かれています。また、「聞こえぬ」も「聞えぬ」と表されることがあり、現代の「言わぬ事は聞こえぬ」は、表記を今の書き方に整えた形です。
この用例で大切なのは、すでに現在の意味にかなり近い形で使われている点です。つまり、単に「声に出さなければ音が聞こえない」というだけでなく、初めに説明しておかないと相手に分からない、という教訓として用いられています。
その後の用例としては、浄瑠璃『伊賀越道中双六』(1783年・江戸時代中期、近松半二・近松加作合作)にも近い形が出てきます。この作品は、荒木又右衛門らの仇討をもとにした浄瑠璃義太夫節で、1783年に大坂の竹本座で初演されました。
『伊賀越道中双六』では、「言はぬことは聞えぬ」という形が会話の中に出てきます。芝居のせりふとして使われていることから、この言い方が、人々に意味の通じる表現として受け止められていたことが分かります。
このことわざは、「言わぬが花」や「言わぬは言うにまさる」のように、言わないことに価値を置く表現とは反対の方向を向いています。黙っている方がよい場面もありますが、「言わぬ事は聞こえぬ」は、相手に伝える必要があるなら言葉にしなければならない、という立場を表します。
そのため、このことわざは、ただ多く話せばよいという意味ではありません。約束、決まり、希望、注意点など、相手に知ってもらう必要がある内容を、初めからはっきり伝える大切さを教える言葉です。
「言わぬ事は聞こえぬ」の使い方




「言わぬ事は聞こえぬ」の例文
- 集合時間を変更したなら、言わぬ事は聞こえぬで、全員に連絡する必要がある。
- 費用が追加でかかることを先に伝えなければ、言わぬ事は聞こえぬと相手に言われても仕方がない。
- 父は家の手伝いの分担を決めるとき、言わぬ事は聞こえぬだから希望は先に言うように家族へ伝えた。
- 注意事項を口頭だけで済ませず文書にも残したのは、言わぬ事は聞こえぬという考えからだ。
- 友人に苦手な食べ物を言わなかったため、言わぬ事は聞こえぬと考えて、次からは前もって伝えることにした。
- 仕事の締切が早まったのなら、言わぬ事は聞こえぬで、担当者全員に知らせるべきだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。
・近松半二・近松加作『伊賀越道中双六』1783年。























