【故事成語】
佚を以て労を待つ
【読み方】
いつをもってろうをまつ
【意味】
十分に休養して力をたくわえ、疲れた相手を待ち受けて対処すること。もとは、元気な味方の兵で、遠くから来て疲れた敵兵を迎え撃つ兵法の心得。


【英語】
・wait for the enemy to wear themselves out(敵が疲れ切るのを待つ)
【類義語】
・逸を以て労を待つ(いつをもってろうをまつ)
・以逸待労(いいつたいろう)
「佚を以て労を待つ」の故事
この故事成語は、中国古代の兵法書『孫子(そんし)』の「軍争」に出てくる兵法の考えに基づく言葉です。『孫子』は中国古代の兵書で、全13編から成り、春秋時代の呉の孫武の著と伝えられますが、戦国時代の作とみる説もあります。
「軍争」は、軍を動かして有利な位置や時機を争うことの難しさを述べる部分です。そこでは、ただ急いで進めばよいのではなく、遠くから急いで来る敵、乱れた敵、疲れた敵を、こちらの整った態勢で待つことが大切だと説かれています。
原文には「以近待遠、以佚待勞、以飽待饑、此治力者也」とあります。これは「近きを以て遠きを待ち、佚を以て労を待ち、飽を以て饑を待つ。これ力を治むる者なり」と読み、近い場所にいる味方が遠くから来る敵を待ち、休んだ味方が疲れた敵を待ち、食糧のある味方が飢えた敵を待つ、という意味です。
ここでいう「佚」は、楽な状態、安らいだ状態を表します。「労」は、疲れること、疲労することを表します。つまり「佚を以て労を待つ」は、味方が無理に動き回って疲れるのではなく、力を残したまま、相手が疲れて弱る時を待つという考えです。
この考えは、単に「何もしないで待つ」という意味ではありません。『孫子』では、敵の勢いや気力が盛んなときには正面からぶつからず、相手の疲れ、乱れ、飢え、遠来の不利を見きわめて戦うことが重んじられています。力を温存することと、時機を選ぶことが結びついている点に、この故事成語の大切な意味があります。
また、この表現は『呉子(ごし)』にも出典として伝えられます。『孫子』と『呉子』はいずれも兵法に関わる古典として扱われ、「佚を以て労を待つ」は、古代中国の兵法の中で、相手より有利な状態を作ってから動く心得を示す言葉として受け継がれてきました。
日本語では、「佚」の字のほかに「逸」を用いて「逸を以て労を待つ」とも書きます。近代の小説『三国志』(昭和14〜18年、吉川英治著)にも「逸を以て労を待つの計」という形が出てきて、敵の陣構えが崩れたところを攻める作戦として使われています。
現在では、戦争そのものに限らず、勝負、競技、議論、交渉などにも用いられます。むやみに先に消耗せず、自分は落ち着いて準備を整え、相手が疲れたり乱れたりしたところで動くという、時機を見きわめる知恵を表す故事成語です。
「佚を以て労を待つ」の使い方




「佚を以て労を待つ」の例文
- 強い相手にすぐ攻め込まず、佚を以て労を待つ作戦で後半に勝負をかけた。
- 相手チームが走り疲れるまで守備を固めたのは、佚を以て労を待つ考えにかなっていた。
- 交渉では、こちらから急いで譲らず、佚を以て労を待つ姿勢で相手の出方を見た。
- 長い試験では、最初から力を使い切らず、佚を以て労を待つように時間配分を考える必要がある。
- 競争相手が無理な宣伝を続けて疲弊するのを見て、会社は佚を以て労を待つ方針を取った。
- 将棋の対局で攻め急がず、相手の駒が乱れるまで待った一手は、佚を以て労を待つ好例だった。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社。
・金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、2000年。
・『孫子』。
・『呉子』。
・吉川英治『三国志』1939〜1943年。























