【故事成語】
一人虚を伝うれば万人実を伝う
【読み方】
いちにんきょをつたうればばんにんじつをつたう
【意味】
一人がうそを言いふらすと、それを聞いた多くの人が真実のこととして言い広めてしまうこと。


【英語】
・rumor becomes fact(うわさが事実として扱われる)
【類義語】
・一犬虚に吠ゆれば万犬実に伝う(いっけんきょにほゆればばんけんじつにつたう)
・一犬形に吠ゆれば百犬声に吠ゆ(いっけんかたちにほゆればひゃっけんこえにほゆ)
・市に虎あり(いちにとらあり)
【対義語】
・百聞は一見に如かず(ひゃくぶんはいっけんにしかず)
・論より証拠(ろんよりしょうこ)
「一人虚を伝うれば万人実を伝う」の故事
「一人虚を伝うれば万人実を伝う」は、中国で「一人傳虛,萬人傳實」と表された言い方に基づきます。「虚」は、事実でないこと、根拠のないことを指し、「実」は本当のこと、事実を指します。つまり、初めは一人の作り話であっても、多くの人が受け売りしていくうちに、本当のことのように受け取られてしまう、という意味です。
この考えの背景には、『潜夫論(せんぷろん)』(後漢、2世紀ごろ、王符撰)の「賢難」に書かれた、人の評判や世間のうわさに対する批判があります。『潜夫論』は一〇巻三六編から成る儒家の書物で、後漢の政治や世の中のあり方を批判し、学問や徳の大切さを説いています。
「賢難」では、すぐれた人がねたみや悪口によって苦しめられ、世の人々が真偽をよく見分けないことが問題にされています。その中で、「一犬吠形,百犬吠聲」ということわざが引かれます。一匹の犬が何かの形を見て吠えると、ほかの犬たちは中身を確かめず、声につられて吠える、というたとえです。
この犬のたとえは、「一人虚を伝うれば万人実を伝う」と同じ考えを示しています。最初に言い出した人の話が本当かどうかを確かめず、多くの人が声だけを追って伝えていくと、事実でないことまで事実らしく広まります。ここで大切なのは、うそをついた一人だけでなく、それを確かめずに受け渡す多くの人にも、広まりを支える力があるという点です。
日本語としては、室町時代中期の『文明本節用集』に「一人虚を伝うれば万人実を伝う」の形が収められています。これは、この言い方がかなり古くから、漢籍に由来する教訓的な表現として日本で受け入れられていたことを示します。
また、同じ意味をもつ「一犬形に吠ゆれば百犬声に吠ゆ」や、「一犬虚に吠ゆれば万犬実に伝う」も、日本語の表現として伝わっています。犬の比喩は「声につられて広がる」ことを見せ、「一人」と「万人」の表現は「人の言葉として広がる」ことをはっきり示します。どちらも、確かめないまま広がる話のこわさを表しています。
現在の「一人虚を伝うれば万人実を伝う」は、単なるうわさ話だけでなく、根拠の弱い情報、思いこみ、悪意のある言いふらしなどにも使えます。多くの人が言っているから正しい、という考えに流されず、事実を確かめることの大切さを教える故事成語です。
「一人虚を伝うれば万人実を伝う」の使い方




「一人虚を伝うれば万人実を伝う」の例文
- 根拠のないうわさが学校中に広まり、一人虚を伝うれば万人実を伝うのこわさを知った。
- 一人虚を伝うれば万人実を伝うというように、だれかの思いこみが本当の話のように扱われた。
- 家族の予定について確かめずに話したため、一人虚を伝うれば万人実を伝うの状態になった。
- 職場では、一人虚を伝うれば万人実を伝うを避けるため、重要な連絡は文書で確認する。
- 町の行事が中止になるという話は、一人虚を伝うれば万人実を伝うで広まった誤報だった。
- 一人虚を伝うれば万人実を伝うを防ぐには、聞いた話をすぐ広めず、事実を確かめることが大切だ。
主な参考文献
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・王符『潜夫論』後漢。
・『文明本節用集』室町時代中期。























