【ことわざ】
思う事一つ叶えばまた一つ
【読み方】
おもうことひとつかなえばまたひとつ
【意味】
人間の欲望には限りがなく、一つの願いがかなうと、すぐにまた次の願いが生まれること。


【英語】
・The more you get, the more you want(得れば得るほど、さらに欲しくなる)
【類義語】
・隴を得て蜀を望む(ろうをえてしょくをのぞむ)
・千石を取れば万石を羨む(せんごくをとればまんごくをうらやむ)
【対義語】
・足るを知る(たるをしる)
「思う事一つ叶えばまた一つ」の語源・由来
「思う事一つ叶えばまた一つ」は、願いが一つ実現しても、それだけでは満足できず、すぐに次の願いが生まれるという、人間の欲の尽きなさを表した言葉です。ここでの「思う」は、単に物事を考えることではなく、「願う」「希望する」という意味を表しています。
古い用例は、後水尾天皇の家集である『後水尾院御集(ごみのおいんぎょしゅう)』(1680年ごろ・江戸時代前期、後水尾天皇御製)にあります。家集とは、一人の作者の歌を集めた歌集のことです。『後水尾院御集』には、後水尾天皇が詠んだ和歌が収められています。
そこには、「おもふ事一つかなへばまた二つ三つ四つ五つ六つかしの身や」とあります。一つの願いがかなうと、二つ、三つ、四つ、五つと望みが増えていき、ついには満足することが難しくなる人間の姿を詠んだ歌です。
この歌では、「一つ」「二つ」「三つ」「四つ」「五つ」と数を順に重ね、最後の「六つかし」へとつないでいます。「六つ」の「むつ」と、「難しい」を表す「むつかし」の音を重ねた言葉遊びになっており、欲が次々と増えていく様子を、調子よく印象深く表しています。「難しい」には、「むつかしい」という形もあります。
歌の末尾にある「身や」は、そのように欲を増やしてしまう自分自身のあり方を嘆く言い方です。初めは一つだけだった願いが、かなった途端に二つ、三つと増えてしまうため、心から満足することは難しいという人間の性質を表しています。
古い歌では「一つかなへばまた二つ」となっていますが、現在の言い方には、「思う事一つ叶えばまた一つ」と「思う事一つ叶えばまた二つ」の両方があります。「また一つ」という形は、一つの願いのあとに新たな一つが生まれることを表し、「また二つ」という形は、望みがさらに増えていくことを強く印象づけます。
同じ教えを表す言葉に、「千石を取れば万石を羨む」があります。千石の収入を得る身分になっても、今度は万石の人をうらやむという意味で、恵まれた状況になっても、さらに上を望み、満足できない心を表しています。
また、中国の古い話に由来する「隴を得て蜀を望む」も、一つの土地を得ると、さらに別の土地まで欲しくなることから、欲望には限りがないことを表します。これに対して、「足るを知る」は、今あるものや自分にふさわしい範囲に満足することを意味し、反対の考え方を示しています。
こうして、「思う事一つ叶えばまた一つ」は、数を重ねた後水尾天皇の歌とつながる言い方として伝わり、一つの願いが実現しても次の願いを求め続ける、人間の満足しにくい心を戒める表現として定着しました。
「思う事一つ叶えばまた一つ」の使い方




「思う事一つ叶えばまた一つ」の例文
- 念願の賞を取った途端に一位の賞品まで欲しがるとは、思う事一つ叶えばまた一つだ。
- 新しい机を買ってもらうと、今度は広い自分の部屋を求め始め、思う事一つ叶えばまた一つとなった。
- 旅行へ行けることが決まったのに高級な宿まで望む様子は、思う事一つ叶えばまた一つである。
- 昇進したばかりなのに、さらに上の役職を欲しがる彼は、思う事一つ叶えばまた一つを地で行っている。
- 店を一軒持つ夢を果たすと、すぐに何店舗も広げたくなり、思う事一つ叶えばまた一つの欲が生じた。
- 大きな家を手に入れた後で、さらに広い庭を求めるとは、まさに思う事一つ叶えばまた一つだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・鈴木健一著、久保田淳監修『和歌文学大系68 後水尾院御集』明治書院、2003年。
・後水尾天皇『後水尾院御集』1680年ごろ。























