【ことわざ】
親の恩より義理の恩
【読み方】
おやのおんよりぎりのおん
【意味】
親から受けた恩よりも、主人・師・世話になった人など、恩義のある他人に報いることを先にすべきだということ。


【類義語】
・親の恩より師匠の恩(おやのおんよりししょうのおん)
・親は一世師は三世(おやはいっせしはさんぜ)
【対義語】
・血は水よりも濃い(ちはみずよりもこい)
「親の恩より義理の恩」の語源・由来
「親の恩より義理の恩」の成り立ちを理解する鍵は、「恩」と「義理」という二つの言葉にあります。「恩」は、自分が受けた恵みや情けのうち、ありがたく思い、いつか報いなければならないものを表します。一方、「義理」は、もともと物事の正しい筋道を意味し、後に、人と人との関係の中で果たすべき務めを指すようになりました。
「恩」の古い用例は、『続日本紀(しょくにほんぎ)』(721年の記事・奈良時代)に、すでに出てきます。また、『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立、平安時代中期、紫式部著)の「帚木(ははきぎ)」には、「いまにそのおんはわすれ侍らねど」とあります。受けた情けを忘れずにいるという、現在にも通じる意味で「恩」が使われています。
「義理」は、『沙石集(しゃせきしゅう)』(1283年・鎌倉時代、無住著)では、物事の正しい道理や筋道という意味で用いられています。この段階では、現在の「人付き合いの上で果たすべき務め」という意味よりも、正しい理屈や道理を表す言葉でした。
やがて、『曾我物語』(南北朝時代ごろ成立)では、「弓矢のぎり」のように、武士が自分の立場や人間関係の中で守るべき道を表す用法が現れます。「義理」は、単なる正しい理屈から、主従・師弟・親子などの関係に応じて果たす務めへと、その意味を広げていきました。
江戸時代になると、この対人関係上の意味が、いっそう強まります。熊沢蕃山の『集義和書(しゅうぎわしょ)』(1676年ごろ・江戸時代前期)には、他人に対して当然行うべきことを怠る意味で、「義理を欠く」という言い方が出てきます。さらに、『世間万病回春』(1771年・江戸時代中期)では、付き合い上のあいさつをする意味で、「義理を述べる」と表しています。
江戸時代を通じて、「義理」は、人間関係を守る道徳だけでなく、世間並みのあいさつや贈答までを含む言葉となりました。1801年の大田南畝の書簡には、「旅館中之義理有之、贈答に困り申候」とあり、付き合いに伴う贈り物も「義理」と呼ばれていたことが分かります。
このことわざに近い考え方は、師弟の恩を重んじる古い言い方にも表れています。『曾我物語』には、「親は一世、師は三世」とあります。親子の縁はこの世一代であるのに対し、師弟の縁は過去・現在・未来の三世に及ぶとして、学問や技を授けた師の恩を重く見る言葉です。
こうした考えを、親から受けた恩と、血縁の外で受けた恩との比較によって端的に表したものが、「親の恩より義理の恩」です。ここでいう「義理の恩」は、単なる形式的な付き合いではなく、自分を助け、育て、導いてくれた主人・師・恩人などに対して負う、報いなければならない恩を指します。
このことわざは、親への感謝を否定するものではありません。親子は身内であるため、つい理解してもらえるだろうと甘えやすいのに対し、他人から受けた恩には、機会を逃さず礼を尽くすべきだという戒めです。「どちらの恩が本当に大きいか」を決めるというよりも、恩返しを行う順序と、人としての信用を説く言葉として受け継がれています。
「親の恩より義理の恩」の使い方




「親の恩より義理の恩」の例文
- 若いころ仕事を教えてくれた親方の葬儀には、親の恩より義理の恩と、彼は何をおいても駆けつけた。
- 母は、親の恩より義理の恩なのだから、まず恩師への礼を尽くしなさいと息子を送り出した。
- 親の恩より義理の恩という考えから、彼は家族の用事を日延べして、命の恩人を見舞った。
- 彼女は親の恩より義理の恩を重んじ、自分を支えてくれた先輩との約束を優先した。
- 親の恩より義理の恩とはいうものの、どちらの恩も忘れてよいわけではない。
- 親の恩より義理の恩と考えた父は、両親の了解を得て、恩師の看病を手伝うことにした。
主な参考文献
・現代言語研究会著『日本語使いさばき辞典 時に応じ場合に即し 改訂増補版』あすとろ出版、2006年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・無住『沙石集』1283年。
・『曾我物語』南北朝時代ごろ成立。
・熊沢蕃山『集義和書』1676年ごろ。
・『世間万病回春』1771年。























