【ことわざ】
可愛可愛は憎いの裏
【読み方】
かわいかわいはにくいのうら
【意味】
心の中では憎く思いながら、口先では盛んにかわいいと言うこと。また、度を越えた愛情は憎しみに変わりやすいことのたとえ。


【英語】
・There is a fine line between love and hate.(愛と憎しみの間にはごくわずかな違いしかない)
【類義語】
・可愛さ余って憎さが百倍(かわいさあまってにくさがひゃくばい)
【対義語】
・憎い憎いは可愛の裏(にくいにくいはかわいのうら)
「可愛可愛は憎いの裏」の語源・由来
「可愛可愛は憎いの裏」は、「かわいい、かわいい」と口では言いながら、心の中では、反対に憎く思っていることを表すことわざです。また、愛情が強すぎると、何かのきっかけで憎しみに変わりやすい、という意味でも使われます。
「可愛可愛」は、同じ言葉を重ねることで、口先で何度も「かわいい」と言う様子を強めています。ここでの「裏」は、表に出た言葉の反対側にある本心を指し、「かわいい」という表向きの言葉の背後に、「憎い」という気持ちが隠れている、という形で成り立っています。
「可愛い」は、「かわゆい」が変化した言葉で、「可愛い」という表記は当て字です。古くは「恥ずかしい」「気の毒だ」という意味もありましたが、中世後半から、女や子どもなどを愛らしく思う意味が生まれ、近世以後はその意味が強くなっていきました。
このことわざで用いられる「可愛」は、愛らしい、いとしい、大切にしたいという近世以後の意味に重なります。そのため、「可愛」と「憎い」を並べることで、愛情と憎しみが反対の感情でありながら、心の中では入れ替わりやすいことを短く表しています。
文献上の古い例としては、『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)に、このことわざが出てきます。『諺苑』は、俗語や俗諺を集め、いろはの各音に配して語釈や出典を示した七巻の国語辞書です。
『諺苑』に載ることから、この言い方は江戸時代後期には、すでにことわざとして記録されるほど知られていたことが分かります。ここで大切なのは、特定の一つの物語に由来するのではなく、人の感情の裏表をとらえた世間の言い回しとして受け継がれてきた点です。
このことわざには、二つの方向があります。一つは、表では「かわいい」と言いながら、内心では憎く思うという、言葉と本心の食い違いを表す方向です。
もう一つは、かわいがる気持ちが度を越すと、相手への期待や執着も強くなり、それがかなわないと憎しみに変わりやすいという方向です。この意味では、「可愛さ余って憎さが百倍」とも近い考え方になります。
反対の形として、「憎い憎いは可愛の裏」ということわざもあります。これは、口では「憎い」と言っていても、実は愛している気持ちの裏返しである、という意味です。
「可愛可愛は憎いの裏」は、人の言葉をそのまま表面だけで受け取らず、その奥にある本心や感情の動きを考えることの大切さを伝えています。愛情と憎しみはまったく離れたものに見えても、強い感情であるほど近づきやすい、という人間関係の難しさを表すことわざです。
「可愛可愛は憎いの裏」の使い方




「可愛可愛は憎いの裏」の例文
- 可愛可愛は憎いの裏というように、口ではほめていても、その態度には冷たさがにじんでいた。
- あまりにわざとらしくかわいがる様子を見て、可愛可愛は憎いの裏ではないかと感じた。
- 期待をかけすぎた相手に失望して急に厳しくなるのは、可愛可愛は憎いの裏に通じる。
- 可愛可愛は憎いの裏ということもあるので、口先のほめ言葉だけで本心を判断しないほうがよい。
- 長く目をかけていた部下の失敗に強く腹を立てる上司の姿は、可愛可愛は憎いの裏を思わせた。
- 友人の前では可愛可愛は憎いの裏のように笑顔でほめていたが、あとで不満をもらしていた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・現代言語研究会『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・太田全斎著、頼惟勤解説、山田忠雄監修『諺苑:春風館本』新生社、1966年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 10th edition』Oxford University Press、2020























