【故事成語】
夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐ
【読み方】
かろはしつをあぶり、とうせんはひをあおぐ
【意味】
役に立たなそうに見えるものでも、使い方や場面によっては役に立つこと。


【英語】
・Everything is good for something.(どんなものにも何かの役目がある)
【類義語】
・無用の用(むようのよう)
【対義語】
・無用の長物(むようのちょうぶつ)
「夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐ」の故事
「夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐ」は、中国・後漢の思想家である王充が著した『論衡(ろんこう)』「逢遇(ほうぐう)」に由来する言葉です。『論衡』は、迷信や俗説を批判し、物事を道理に照らして考えようとした書物です。
「逢遇」では、人の才能や徳がすぐれていても、必ずよい地位に用いられるとは限らないと述べています。王充は、賢いか賢くないかは才能の問題であり、めぐり会って用いられるかどうかは時の問題だと考えます。
この考えの背景には、君主が何を好み、どのような人物を求めるかが、いつも同じではないという見方があります。ある時には文章にすぐれた人が喜ばれ、別の時には武の力をもつ人や、弁舌の巧みな人が求められることがあります。
『論衡』「逢遇」には、世間の人々が、用いられない人物を「役に立たない技を作り、助けにならない説を差し出す者」と見ることがある、と書かれています。そのたとえとして、「夏に炉を差し出し、冬に扇を差し出す」ようなものだという言い方が出てきます。
夏の炉は、ふつう暑苦しく、季節に合わないものに思われます。冬の扇も、涼を取る道具として見れば、寒い時期には役に立たないものに思われます。
しかし王充は、そこで見方を反転させます。『論衡』には「夏時の鑪は以て湿を炙り、冬時の扇は以て火を翣ぐ」とあり、夏の炉は湿気を乾かすことができ、冬の扇は火をあおぐことができると述べています。
つまり、ある道具が役に立つかどうかは、季節の名目だけでは決まりません。何に使うか、どの場面で使うかによって、同じものが無用にも有用にもなります。
この考えは、人の才能についても同じです。ある君主の前では必要とされない力でも、別の君主や別の時代では大きな働きをすることがあります。
『論衡』では、時勢や相手の好みに合わず、何度も機会を逃す人物の話も示されています。若い時に文字を学び、のちに兵法を学び、さらに人に用いられようとしても、時が合わなければ認められないという流れです。
このように、もとの文脈では、夏の炉や冬の扇は単に「役に立たないもの」のたとえではありません。一見ふさわしくないものでも、使い方と時が合えば役に立つという考えを表しています。
後には、「夏炉冬扇」という形で、季節外れで役に立たないものを指す言い方も広まりました。一方で、「夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐ」という長い形は、むしろ時期外れに見えるものにも別の用い道がある、という原典の見方をよく残しています。
現在では、人や物を一つの見方だけで無用と決めつけないための言葉として用いられます。役に立たなそうに見えるものにも、その場に合った使い道があるという、落ち着いた知恵を伝える故事成語です。
「夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐ」の使い方




「夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐ」の例文
- 古い新聞紙を荷物のすき間に詰め、夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐの考え方を思い出した。
- 使わなくなった布が掃除に役立ち、夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐとはこのことだと感じた。
- 失敗した試作品の部品が修理に使われ、夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐという結果になった。
- 控えの選手が急な交代で活躍し、夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐという言葉が浮かんだ。
- 季節外れの飾りを舞台道具に変え、夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐを実感した。
- 地味な記録係の資料が話し合いを助け、夏炉は湿を炙り、冬扇は火を翣ぐの大切さを知った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・槌田満文著『四季ことわざ辞典』東京堂出版、2001年。
・王充『論衡』後漢。
・Henry G. Bohn, A Polyglot of Foreign Proverbs, Henry G. Bohn, 1857.























