【ことわざ】
一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う
【読み方】
いっぴきのうまがくるえばせんびきのうまもくるう
【意味】
一人の行いが、周囲の大勢を同じような行動へ駆り立ててしまうことのたとえ。群集が他人の言動につられて、よく考えずに同調しやすいこと。


【英語】
・herd mentality(集団の中で、個人としてではなく周囲に合わせて考えたり行動したりする心理)
【類義語】
・狂人走れば不狂人も走る(きょうじんはしればふきょうじんもはしる)
・一犬形に吠ゆれば百犬声に吠ゆ(いっけんかたちにほゆればひゃっけんこえにほゆ)
・付和雷同(ふわらいどう)
「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」の語源・由来
このことわざは、馬の群れの中で一匹が急に騒ぎ出すと、ほかの馬までつられて動き出すという、具体的な情景をもとにしています。「一匹」と「千匹」を対にすることで、小さなきっかけが大きな集団の動きへと広がることを、強く印象づける言い方になっています。
馬は群れで行動する動物であり、危険を感じたときには、走って逃げる性質をもっています。群れの一頭が不安や危険に反応して動き出すと、ほかの馬もその動きに合わせて逃げることがあり、このことわざの比喩は、そうした馬の性質とよく結びついています。
言い方には、「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」のほか、「一匹狂えば千匹の馬も狂う」「一匹の馬が狂えば千匹の馬が狂う」のような形もあります。いずれも、馬そのものを説明するためだけでなく、人間の集団が一人の行動や言葉に動かされやすいことを表すたとえとして使われます。
同じ発想は、日本の古い説話にも、別の形で出てきます。『沙石集(しゃせきしゅう)』(1283年成立、鎌倉時代、無住著)には、「狂人走れば不狂人走る」という言い方が出てきます。これは、ある人が走り出すと、事情をよく知らない人までつられて走るという意味で、人が他人の動きに引きずられやすいことを示しています。
また、中国後漢の王符による『潜夫論(せんぷろん)』には、一匹の犬が物の形を見てほえると、多くの犬がその声につられてほえるという趣旨の言い方が伝わります。この言い方は、日本でも『文明本節用集』などに見え、一人の不確かな言動が多くの人へ広がることのたとえとして受け止められてきました。
これらの古い表現と比べると、「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」は、犬の声や人の走る姿ではなく、馬の群れの動きにたとえている点に特色があります。馬の群れは大きく、いったん動き出すと、その勢いが強く感じられるため、一人の行動が集団全体を巻き込む危うさを表すのに適した比喩になっています。
このことわざは、一人がよい手本を示して全体を導くというよりも、よく考えない同調や、周囲につられて冷静さを失うことへの戒めとして用いられます。つまり、集団の中にいるときほど、一人ひとりが落ち着いて判断することが大切だ、という教えにつながることわざです。
「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」の使い方




「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」の例文
- 一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うで、根拠のないうわさにクラス全体が振り回された。
- 一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うというから、リーダーは軽はずみな発言を避けるべきだ。
- 会場で一人が走り出したため、一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うように、観客まで出口へ押し寄せた。
- 一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うを思い出し、母は家族に落ち着いて情報を確かめるよう言った。
- 職場では、一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うような混乱を防ぐため、正確な連絡を徹底した。
- 一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うの例にならないよう、友人たちはうわさを広めず先生に確認した。
主な参考文献
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館、1984〜1994年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・現代言語研究会編『故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・馬場俊臣「『馬』に関することわざ」『札幌国語研究』第20号、北海道教育大学札幌国語国文学会、2015年。
・無住『沙石集』1283年。
・王符『潜夫論』後漢。























