【ことわざ】
一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む
【読み方】
いっぱいはひとさけをのむ、にはいはさけさけをのむ、さんばいはさけひとをのむ
【意味】
酒は少しなら自制して飲めるが、杯を重ねるうちに乱れ、最後には酒に支配されて正気を失うという戒め。酒はほどほどにすべきだというたとえ。


【英語】
・drink responsibly(節度をもって酒を飲む)
【類義語】
・酒は飲むべし飲まれるべからず(さけはのむべしのまれるべからず)
「一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む」の語源・由来
「一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む」は、酒の量が増えるにつれて、主導権が人から酒へ移っていく様子を、三段階で言い表したことわざです。「人が酒を飲む」から始まり、「酒が酒を飲む」を経て、最後に「酒が人を飲む」となるところに、この表現の力があります。酒を飲んでいるつもりでも、度を越すと酒のほうに心身を支配される、という戒めが込められています。
この考え方に近い古い形として、『法華経抄(ほけきょうしょう)』には「初には即ち人酒を呑み、次には則ち酒酒を呑み、後には則ち酒人を呑む」という形が伝わります。ここでは、「人が酒を呑む」「酒が酒を呑む」「酒が人を呑む」という語順の反転によって、酔いが進むほど人の自制が失われることを、短く印象的に表しています。
江戸時代には、この言い方が酒の飲み過ぎを戒めることわざとして広く受け取られていきました。『小児養育気質』(1773年・江戸時代中期刊)は、浮世草子の系統に属する作品としてこの表現の出典に挙げられ、また『安斎随筆(あんさいずいひつ)』(1783年ごろ、伊勢貞丈著)にも、多量の飲酒を戒める言葉として用例が伝わります。
さらに、太田全斎の『諺苑(げんえん)』(1797年成立)にも、「一杯は人酒を飲む。二杯は酒酒を飲む。三杯は酒人を飲む」という形が伝わります。『諺苑』は俗語や俗諺を集めた江戸時代の国語辞書で、このことわざが近世の言い習わしとして整理され、記録されていたことが分かります。
このことわざでは、「一杯」「二杯」「三杯」は、単に正確な杯数だけを指すのではなく、酔いが深まる段階を分かりやすく示しています。一杯目では人に自制心があり、二杯目では酒を飲むためにまた酒を重ね、三杯目では酒の力に負けて人が乱れる、という流れです。酒そのものを悪いものと決めつけるのではなく、量をわきまえない飲み方の危うさを戒めています。
現在でも、この表現は酒席での失敗、飲み過ぎによる判断力の低下、周囲への迷惑を戒める言葉として使われます。ことわざとしての中心は、酒を飲むか飲まないかではなく、自分を失うほど飲んではならないという点にあります。言い回しの面では、「飲む」という同じ動詞の主語を入れ替えることで、人が酒を支配する状態から、酒が人を支配する状態へと変わる様子を、強く心に残る形で伝えています。
「一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む」の使い方




「一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む」の例文
- 忘年会で上司は、一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲むと言って、飲み過ぎないよう皆に声をかけた。
- 父は同窓会に出かける前に、一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲むを忘れないようにすると家族に約束した。
- 酒席での失敗を聞くたびに、一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲むという戒めの重さを感じる。
- 取引先との会食では、一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲むを心に留め、節度あるふるまいを心がけた。
- 楽しい祝いの席でも、一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲むというように、飲み過ぎれば失敗につながる。
- 地域の集まりで、一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲むを合言葉に、無理な飲酒をすすめないことにした。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『小児養育気質』林伊兵衛、1773年。
・伊勢貞丈『安斎随筆』1783年ごろ。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・『法華経抄』。























