【故事成語】
益者三友、損者三友
【読み方】
えきしゃさんゆう、そんしゃさんゆう
【意味】
交際して自分のためになる友人には三種類あり、かえって自分を損なう友人にも三種類あるという教え。正直な人、誠実な人、物知りな人は益友であり、不正直な人、うわべだけ柔和な人、口先ばかり巧みな人は損友に当たる。


【英語】
・There are three kinds of beneficial friends and three kinds of harmful friends.(自分を高める友には三種類、自分を損なう友にも三種類ある)
「益者三友、損者三友」の故事
「益者三友、損者三友」は、『論語(ろんご)』(紀元前5世紀ごろ、中国古代、孔子の弟子たちが記録・整理)の「季氏(きし)」第十六に出てくる孔子の言葉にもとづきます。『論語』は、孔子の教えや弟子たちとの対話を収めた全二十編の書物です。
原文には、「孔子曰、益者三友、損者三友。友直、友諒、友多聞、益矣。友便辟、友善柔、友便佞、損矣」とあります。孔子は、人を友とすることによって生じる益と損を、それぞれ三種類に分けて示しました。
書き下すと、「孔子曰く、益者三友、損者三友あり。直を友とし、諒を友とし、多聞を友とするは、益なり。便辟を友とし、善柔を友とし、便佞を友とするは、損なり」となります。ここでの「友」は、「友人」という名詞ではなく、「友として交わる」という意味です。
三種類の益友の第一は、「直(ちょく)」な人です。正直で、相手の誤りを見過ごさず、言いにくいことでも率直に伝えてくれる人を指します。
第二は、「諒(りょう)」のある人です。「諒」は誠実で信頼できることを表し、表裏がなく、真心をもって付き合う人を指します。
第三は、「多聞(たぶん)」の人です。さまざまな事柄を見聞きし、広い知識や見識を備えた人と交われば、自分の知らないことを学び、考えを深められます。
これに対して、三種類の損友の第一は、「便辟(べんぺき)」の人です。相手が嫌がることを巧みに避け、正しいことを言うよりも、機嫌を取って気に入られようとする人を指します。
第二は、「善柔(ぜんじゅう)」の人です。顔つきや物腰は柔らかく、目の前では従うように振る舞いながら、心には誠実さがなく、陰では相手を悪く言うような人を指します。
第三は、「便佞(べんねい)」の人です。言葉を巧みに操りますが、それに見合う知識や真心をもたず、口先だけで人を動かそうとする人を表します。
南宋の儒学者・朱熹が著した『論語集注(ろんごしっちゅう)』では、正直な友から自分の過ちを聞き、誠実な友によって自分も誠実さを増し、多聞な友によって物事を明らかに理解できるようになると説いています。三種類の益友は、それぞれ異なる面から自分を成長させる存在なのです。
『論語』は古くから日本へ伝わり、奈良時代の知識人の学問から、江戸時代の藩校や寺子屋に至るまで、道徳や漢文を学ぶための重要な書物として読まれました。そのため、友を選ぶこの教えも、日本の学問や生活の中に広く取り入れられました。
『本朝麗藻(ほんちょうれいそう)』(1010年ごろ・平安時代中期、高階積善編)には、藤原有国の漢詩に「聚雪窓中三益友」とあります。『論語』の一節から生まれた「三益友」という縮めた形が、日本の漢詩文に早くから用いられていた例です。
さらに、『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』(室町時代中期)には、「益者三友(ヱキシャサンユウ)損者三友(ソンシャサンユウ)〔季氏篇〕」とあります。二つの言葉が対になった形で、典拠とともに古い辞書に収められていました。
江戸時代前期の儒学者・伊藤仁斎は、『論語古義(ろんごこぎ)』で、友人との関係は人に及ぼす影響が非常に大きく、益も損もそこから生じると述べました。また、益友は耳に痛いことを言うため敬遠されやすく、損友は気分のよいことを言うため好まれやすいとして、友を選ぶ難しさを説いています。
このように、「益者三友、損者三友」は、都合のよいことを言ってくれる人だけを友とするのではなく、自分を正し、誠実さや知識を育ててくれる人を大切にすべきだという教えです。友人は、楽しさを分かち合う相手であるとともに、互いの人柄や生き方にも深く影響を与える存在だと伝えています。
「益者三友、損者三友」の使い方




「益者三友、損者三友」の例文
- 先生は、益者三友、損者三友を引き合いに出して、友人から受ける影響の大きさを説いた。
- 益者三友、損者三友という教えを知り、耳の痛い忠告をしてくれる友を大切にしようと思った。
- 父は、子どもの交友関係を案じながら、益者三友、損者三友という言葉を思い出した。
- 益者三友、損者三友に照らせば、何でも機嫌を取る人が必ずしもよい友人とは限らない。
- 部下に率直な意見を求める社長の姿勢には、益者三友、損者三友の教えが生きている。
- 益者三友、損者三友を心に留め、誠実に助言し合える仲間との縁を育てたい。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『論語』紀元前5世紀ごろ。
・朱熹『論語集注』南宋。
・伊藤仁斎『論語古義』江戸時代前期。
・高階積善編『本朝麗藻』1010年ごろ。
・中田祝夫著『文明本節用集研究並びに索引 改訂新版』勉誠社、1979年。























