【ことわざ】
今の甘葛、後の鼻面
【読み方】
いまのあまずら、のちのはなづら
【意味】
今、楽をしたり甘い思いをしたりすると、後になって苦しい結果を招くことのたとえ。


【英語】
・After pleasure comes pain(楽しみのあとには苦しみが来る)
【類義語】
・楽あれば苦あり(らくあればくあり)
・今の情けは後の仇(いまのなさけはのちのあだ)
【対義語】
・苦は楽の種(くはらくのたね)
「今の甘葛、後の鼻面」の語源・由来
「今の甘葛、後の鼻面」は、「甘葛」の甘さと、「鼻面」による束縛を対にしたことわざです。「甘葛」は甘い汁を煮詰めた甘味料を指し、「鼻面」は牛を引くために鼻に付ける道具を思わせる言葉として働いています。
このことわざでは、前半の「今の甘葛」が、いま味わう甘いもの、すぐ手に入る楽なものを表します。後半の「後の鼻面」は、あとになって牛のように自由を制限され、いやでも働かされる苦しい状態を表します。
「甘葛」は「あまずら」と読み、深山に生えるつる草の一種、またはそれから採った甘味料を指します。秋から冬に茎の切り口から液汁を採り、その汁を煮詰めたものを甘味料として用いました。
甘葛の原料植物については説明に幅がありますが、古代から用いられた日本の甘味料としての性格ははっきりしています。甘葛煎(あまずらせん)、味煎(みせん)とも呼ばれ、中世後期に砂糖が広まる以前には、貴重な甘味として扱われました。
甘葛煎の古い用例には、『正倉院文書』(奈良時代)の天平八年、すなわち736年の「薩摩国正税帳」に出てくる「運府甘葛煎担夫参人」があります。ここでは、甘葛煎が公的な文書の中に現れ、古代の社会で物資として扱われていたことが分かります。
平安時代には、甘葛は上品でぜいたくな甘みとしても知られていました。『枕草子』(10世紀末ごろ、清少納言著)には、「削り氷にあまづら入れて、あたらしき金鋺に入れたる」という一節があり、削った氷に甘葛をかけたものが、美しく優美なものとして挙げられています。
一方、「鼻面」は、このことわざでは牛の鼻綱や鼻木に関わる意味を重ねています。「牛縻・縻(はなづら)」は牛の鼻綱、または鼻木を指し、『新撰字鏡』(898〜901年ごろ、昌住著)には「牢 牛乃波奈豆良」という古い用例があります。
また、「牛鼻貫(うしのはなづら)」は、牛の鼻に通す環を指します。牛は鼻に通された輪や綱によって人に引かれるため、「鼻面」は自由に動けない状態、他人に使われる状態を連想させる言葉になります。
このことわざは、「甘葛」の「ずら」と「鼻面」の「づら」を響きで結びつけています。甘いものを味わう「今」と、鼻綱を取られて苦しむ「後」を並べることで、目先の楽を選ぶとあとで苦労するという教えを、語呂よく覚えやすい形にしています。
「楽あれば苦あり」と同じく、楽な時間のあとに苦しいことが来るという考えにもつながります。ただし、「今の甘葛、後の鼻面」は、甘いものを口にする楽しさと、牛の鼻綱に引かれる苦しさを並べるため、目先の快さと後の束縛との落差がより具体的に伝わります。
現在の使い方では、今だけ楽をするために準備や努力を怠り、あとで大きな負担を負うような場面に合います。単に楽しいことのあとに苦しいことがあるというだけでなく、目先の甘さに負けた結果として後の苦しみを招く、という戒めを含むことわざです。
「今の甘葛、後の鼻面」の使い方




「今の甘葛、後の鼻面」の例文
- 試験前に遊んでばかりいて前日に徹夜するのは、今の甘葛、後の鼻面というものだ。
- 安いからと必要のない物まで買い込めば、月末に生活費が足りなくなり、今の甘葛、後の鼻面になる。
- 練習をさぼって楽をした選手は、大会本番で走り切れず、今の甘葛、後の鼻面を思い知った。
- 提出期限を先延ばしにして動画を見続けたため、週末は課題に追われ、今の甘葛、後の鼻面となった。
- 目先の利益だけを求めて無理な契約を結ぶと、あとで責任が重くなり、今の甘葛、後の鼻面になりかねない。
- 面倒な片づけを後回しにした結果、引っ越し前日に徹夜することになり、今の甘葛、後の鼻面という状況だった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・清少納言『枕草子』10世紀末ごろ。
・昌住『新撰字鏡』898〜901年ごろ。
・『正倉院文書』奈良時代。























