【故事成語】
石破れ天驚く
【読み方】
いしやぶれてんおどろく
【意味】
音楽・詩文・出来事などが、世の中の人を驚かせるほど奇抜で巧みなこと。特に、普通の発想を超えたすぐれた表現や出来事をいう。


【英語】
・earth-shattering(人を大きく驚かせるほど重大で衝撃的な)
・remarkable and original work(目立って独創的な作品)
【類義語】
・斬新奇抜(ざんしんきばつ)
・奇想天外(きそうてんがい)
【対義語】
・平平凡凡(へいへいぼんぼん)
・尋常一様(じんじょういちよう)
「石破れ天驚く」の故事
「石破れ天驚く」は、中国・唐代の詩人、李賀(りが)の詩『李憑箜篌引(りひょうくごのいん)』に由来する故事成語です。漢字四字では「石破天驚」と書き、日本語では「石破れて天驚く」とも訓読されます。
李賀は、790年に生まれ、816年に若くして亡くなった中国の詩人です。想像力の強い表現で知られ、短い生涯のうちに、ふつうの写実だけでは届かないような幻想的な詩を残しました。
もとの詩の題名にある「李憑」は、箜篌を奏でる名人の名です。箜篌(くご)は、古代東アジアの弦楽器で、ハープに似た竪箜篌などを含む楽器です。
『李憑箜篌引』には、「女媧煉石補天處、石破天驚逗秋雨」という句が出てきます。これは、女媧が石を練って天を補っている場所で、石が破れ、天が驚き、秋の雨がしたたり落ちる、という壮大な場面を描いた言葉です。
女媧(じょか)は、中国古代神話の女神です。天が崩れそうになったとき、五色の石を練って天を補修したという伝承を持ちます。
この女媧の物語は、『淮南子(えなんじ)』「覧冥訓」にも出てきます。そこでは、昔、天を支える秩序がこわれ、大地が裂け、火や水や猛獣に人々が苦しめられたとき、女媧が五色の石を練って蒼天を補い、地上に平安を取り戻す流れが語られています。
李賀の詩は、この古い神話をそのまま説明するのではなく、李憑の箜篌の音をたたえるために用いています。楽器の音があまりにすばらしいため、天を補う石まで破れ、天そのものが驚くようだ、という非常に大きな比喩になっています。
そのため、もとの中心は「箜篌の音が、このうえなく巧みで、人の心だけでなく天までも動かすほどである」ということです。石が割れ、天が驚くという表現は、実際の出来事ではなく、音楽のすぐれた力を極端に大きく描いた詩的表現です。
のちに「石破天驚」は、音楽だけでなく、詩文や議論、発想などが普通の枠を大きく超えていることを表す成語として使われるようになりました。文章や議論が奇想天外であることをいう中国語の成語としても受け継がれています。
日本語では、漢字四字の「石破天驚」とともに、読み下した「石破れ天驚く」の形でも使われます。どちらの形でも、単に騒がしい、または大事件であるというより、音楽・詩文・作品・出来事などが、世の中を驚かせるほど独創的で巧みであるという意味が中心です。
現在の使い方では、すぐれた演奏、予想を超えた詩や小説、画期的な作品、思いもよらない発明などに用いるのが自然です。驚きだけを表す言葉ではなく、そこに「すぐれている」「巧みである」という評価が含まれる点が、この故事成語の大切なところです。
「石破れ天驚く」の使い方




「石破れ天驚く」の例文
- 新人作曲家の初演は、静かな旋律から一気に広がる石破れ天驚く作品だった。
- その詩は、身近な夕焼けを宇宙の始まりのように描いた、石破れ天驚く一編だった。
- 科学部の発表には、失敗した実験を新しい発見につなげる石破れ天驚く着想があった。
- 映画の終盤に明かされた仕掛けは、観客の予想を見事に裏切る石破れ天驚く展開だった。
- 彼女のピアノ演奏は、速さだけでなく音の表情まで豊かな、石破れ天驚く名演だった。
- 町工場が開発した小さな部品は、世界の技術者を驚かせる石破れ天驚く発明となった。
主な参考文献
・北京・商務印書館・小学館共同編集『中日辞典 第3版』小学館、2016年。
・三省堂編修所編『新明解四字熟語辞典 第二版』三省堂、2013年。
・李賀著、原田憲雄訳注『李賀歌詩編 1』平凡社、1998年。
・劉安編『淮南子』前漢。
・HarperCollins Publishers『Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary』HarperCollins Publishers。























