【故事成語】
彼も一時、此も一時
【読み方】
かれもいちじ、これもいちじ
【意味】
世の中のことは時とともに移り変わり、一定しないこと。また、栄えることも衰えることも、その時かぎりであること。


【英語】
・Other times, other manners.(時代が違えば、やり方も違う)
・Circumstances alter cases.(事情が変われば、判断も変わる)
【類義語】
・有為転変(ういてんぺん)
・栄枯盛衰(えいこせいすい)
・盛者必衰(じょうしゃひっすい)
【対義語】
・万世不易(ばんせいふえき)
「彼も一時、此も一時」の故事
「彼も一時、此も一時」は、中国の古典『孟子(もうし)』「公孫丑下」に出てくる「彼一時、此一時也」にもとづく故事成語です。『孟子』は、中国戦国時代の儒家である孟子の言行を、弟子たちがまとめた儒教の経典です。
『孟子』「公孫丑下」では、孟子が斉を去る場面で、この言葉が出てきます。弟子の充虞(じゅうぐ)は、道中の孟子に、先生は晴れない顔をしているようだと問いかけます。
充虞は、以前に孟子から「君子は天を怨まず、人を尤めず」と聞いたことをふまえ、今の孟子の様子を不思議に思ったのです。これは、立派な人は天をうらまず、人をとがめないという考えを指します。
その問いに対して、孟子は「彼一時、此一時也」と答えます。これは、「あの時はあの時、この時はこの時である」という意味です。
孟子は続けて、五百年に一度は王者が興り、その間には世に名のある人物が現れると語ります。さらに、周の時代から七百年以上が過ぎているので、天下を平らかに治める時が来てもよい、と考えを述べます。
この場面での「彼一時、此一時也」は、前に語った心の持ち方と、今の天下の時勢とを、同じものとして単純に比べてはいけないという意味をもちます。つまり、時が違えば事情も変わり、その時に応じた見方が必要だということです。
日本語では、この漢文の形から「彼も一時、此も一時」という言い方が生まれました。原文の「彼」は「あの時」、「此」は「この時」を指し、日本語の形では「あれも一時、これも一時」と、どちらも時の移り変わりの中の一場面であることを強めています。
この言葉は、江戸時代後期の諺語辞典『譬喩尽』(1786年序、松葉軒東井編)にも用例が見えます。『譬喩尽』は、ことわざを中心に詩歌・童謡・流行語・方言などを広く集めた書物です。
古い用例では、『孟子』の「時が違えば事情も違う」という意味を受けつぎながら、世間の物事は変わり続けるという理解へ広がっています。そこから、栄えていることも衰えていることも永遠ではなく、どちらも一時の姿にすぎないという意味が定着しました。
現在の「彼も一時、此も一時」は、過去と現在を同じ物差しで比べすぎないように戒める言葉として使われます。成功した時代も、うまくいかない時期も、時の流れの中では一時のことだと受け止め、今の事情に合った判断をする大切さを表します。
「彼も一時、此も一時」の使い方




「彼も一時、此も一時」の例文
- 彼も一時、此も一時で、昔うまくいった方法が今も通じるとは限らない。
- 町の中心だった商店街も人の流れが変わり、彼も一時、此も一時という言葉が身にしみる。
- かつて人気を集めた商品も売れ行きが落ち、彼も一時、此も一時の世の中だ。
- 大会で負けた悔しさも長くは続かず、彼も一時、此も一時と思って次の練習に向かった。
- 祖父は、会社の景気が良い時も悪い時も、彼も一時、此も一時だと言って落ち着いていた。
- 前の計画に固執せず、彼も一時、此も一時と考えて今の条件に合う方法を選んだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松葉軒東井編『譬喩尽』1786年序。
・『孟子』戦国時代。
・Elizabeth Knowles編『The Oxford Dictionary of Phrase and Fable, 2nd ed.』Oxford University Press,2005.























