【故事成語】
肝胆を披く
【読み方】
かんたんをひらく
【意味】
本心を隠さず打ち明けること。まごころをこめて相手に接すること。


【英語】
・open one’s heart to someone.(人に心を開いて打ち明ける)
・bare one’s heart / soul(心の奥にある思いを打ち明ける)
【類義語】
・肝胆を披瀝する(かんたんをひれきする)
・胸襟を開く(きょうきんをひらく)
・腹を割る(はらをわる)
【対義語】
・胸に納める(むねにおさめる)
「肝胆を披く」の故事
「肝胆を披く」は、中国の歴史書『漢書(かんじょ)』に見える表現にもとづく故事成語です。『漢書』は、前漢の歴史を紀伝体で記した書物で、80年ころに成立し、後漢の班固が撰し、妹の班昭らが補いました。
この言葉のもとになった一節は、『漢書』巻五十一「賈鄒枚路伝」に収められた、前漢の官僚である路温舒の上書の中に出てきます。路温舒は、昭帝の死後、宣帝が即位したころ、徳を重んじ、刑をゆるやかにする政治を求めて意見を述べました。
その文章では、過去の混乱を取り上げながら、すぐれた政治がどのように国を安定させるかを説いています。路温舒は、禍乱のあとには新しい聖明な君主が現れることがあるとして、宣帝に政治の始めを正すよう勧めました。
その中で、かつての大将軍霍光の働きが語られます。原文には「故大將軍受命武帝,股肱漢國,披肝膽,決大計,黜亡義,立有德,輔天而行,然後宗廟以安,天下咸寧」とあります。
これは、霍光が武帝の命を受け、漢王朝を支える重要な臣下となり、まごころを尽くして大きな方針を決め、道に外れた者を退け、有徳の人物を立てた、という流れの言葉です。その結果、宗廟は安らかになり、天下は平和になったと述べています。
ここでいう「肝胆」は、もとは肝臓と胆嚢を指します。そこから転じて、心の中、心の底、また誠の心を表す言葉になりました。
また、「披」は、開く、広げる、または心の内を打ち明ける意味をもつ漢字です。したがって「肝胆を披く」は、体の奥にある肝や胆まで開いて見せるように、心の奥底を隠さず示すたとえになります。
『漢書』の文脈では、単に個人的な秘密を話すというより、国家の大事を決めるにあたって、私心なく誠を尽くす意味合いが強く出ています。霍光が「披肝膽,決大計」と語られることで、真心をもって大きな決断をしたことが示されています。
後にこの表現は、政治や大事な相談だけでなく、人と人との関係にも広がりました。日本語では、本心を打ち明けること、またまごころをこめて接することのたとえとして使われます。
日本での用例としては、明治31年の『明治人物月旦』に「肝胆を披きて」という形が見られます。この段階では、相手に対して本心を示し、誠意をもって提携しようとする意味で用いられています。
また、同じ趣旨の言い方として「肝胆を披瀝する」という形もあります。「披瀝」は、心にあることを包み隠さず述べる意味をそえ、「肝胆を披く」とほぼ同じ方向の表現として用いられます。
現在の「肝胆を披く」には、相手を信頼して本音を話す意味と、誠意を尽くして向き合う意味が重なっています。体の奥にある肝胆を開くという強い比喩が、心の奥まで隠さないという意味につながっているのです。
「肝胆を披く」の使い方




「肝胆を披く」の例文
- 親友に肝胆を披くことで、長く抱えていた悩みが少し軽くなった。
- 部員たちは肝胆を披く話し合いを重ね、試合に向けて気持ちを一つにした。
- 社長は社員に肝胆を披く姿勢で語り、会社の苦しい状況を説明した。
- 兄は進路について父に肝胆を披くつもりで、自分の希望を正直に伝えた。
- 長年の誤解を解くには、互いに肝胆を披く対話が必要だった。
- 代表者どうしが肝胆を披く交渉を行い、ようやく合意に近づいた。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・鎌田正・米山寅太郎著『角川新字源 改訂新版』KADOKAWA、2017年。
・班固『漢書』。
・Cambridge University Press, Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus.























