【ことわざ】
川口で船を破る
【読み方】
かわぐちでふねをわる
【意味】
長い航海の末に港近くの川口で船を損なうことから、成功の直前で失敗すること。また、出航しようとしたところで川口で船を損なうことから、物事の始めに失敗すること。


【英語】
・fall at the final hurdle.(最後の段階で失敗する)
・fall at the first hurdle.(最初の段階でつまずく)
【類義語】
・磯際で船を破る(いそぎわでふねをわる)
・九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく)
・港口で難船(みなとぐちでなんせん)
【対義語】
・終わり良ければすべて良し(おわりよければすべてよし)
「川口で船を破る」の語源・由来
「川口」は、川の水が海や湖に流れ込む所を指します。河口、川じりともいい、船が海や川を行き来する場面と深く関わる場所です。
このことわざでいう「川口」は、埼玉県川口市のような地名ではなく、川が海や湖へ出入りする口のことです。長い航海をしてきた船が、港の近くまで来たところで船を損なう場面が、この表現の土台になっています。
第一の意味は、成功の一歩手前まで来て失敗することです。遠い道のりを進み、あと少しで着くというところで船を壊してしまうため、それまでの苦労がむなしくなる様子を表します。
この意味に近い古い用例として、江戸時代中期の浄瑠璃『七小町』(1727年)に、「今宵一夜が手詰の瀬戸、川口で舟破(ワル)な」という形が出てきます。ここでは「舟」と書き、「破(ワル)」と読ませて、いよいよ大事な局面で失敗してはならないという切迫した場面に用いています。
『七小町』は、小野小町をめぐる七つの伝説や作品群を背景にもつ芸能の題材と関わっています。1727年・享保十二年には、竹本座で竹田出雲作の人形浄瑠璃として上演されたものがあり、江戸時代の舞台芸能の中で「川口で舟破る」という言い方が、生きた比喩として用いられていたことが分かります。
もう一つの意味は、物事のしはじめの第一歩から失敗することです。これは、長い航海に出ようとする時、港近くの川口で早くも船を損なうという考え方から来ています。
この第二の意味は、江戸時代後期の『譬喩尽』(1786年序、松葉軒東井編)にも関係づけられています。『譬喩尽』は、ことわざを中心に、詩歌・童謡・流行語・方言などを広く集め、いろは順に並べた諺語辞典です。
つまり、このことわざには、到着目前で失敗する場合と、出発直後につまずく場合という、二つの方向があります。どちらにも共通しているのは、大事な節目で船を損なうという危うさです。
類義の「磯際で船を破る」も、港の近くまで来た船が難破することから、物事が成就する直前に失敗するたとえとして用いられます。このことから、「川口」「磯際」「港口」という、水際の危ない場所を用いた近い発想の言い方があったことが分かります。
船旅では、広い海を越えたあとでも、港に入る直前の浅瀬、岩場、流れの変わる場所で危険が起こります。そのため、「もう大丈夫」と気をゆるめる瞬間こそ注意が必要だという生活感覚が、このことわざの意味を支えています。
現在では、船や港に限らず、受験、試合、発表、契約、作品づくりなど、成功目前で失敗する場面に広く用いられます。また、計画の第一歩で大きくつまずいた場合にも使うことができます。
「川口で船を破る」は、最後まで気を抜かないこと、また、始めの一歩をおろそかにしないことを教えることわざです。終わり際にも始まりにも、物事を左右する大切な場面があることを、船の失敗にたとえて伝えています。
「川口で船を破る」の使い方




「川口で船を破る」の例文
- 決勝戦の終了間際に反則をして負けるとは、まさに川口で船を破る結果だ。
- 原稿はほぼ完成していたのに、保存を忘れて消してしまい、川口で船を破ることになった。
- 面接の直前に必要な書類を家に置いてきたのは、川口で船を破るような失敗だ。
- 長い準備を重ねた発表会で、最後の確認を怠って川口で船を破ることになった。
- 新しい店を開く初日に大切な予約表をなくし、川口で船を破る形になった。
- 契約成立の直前に条件を読み違えたため、川口で船を破る結果を招いた。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・松葉軒東井編、宗政五十緒校訂『たとへづくし:譬喩尽』同朋舎出版、1979〜1981年。
・『七小町』1727年。
・Oxford University Press, Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 10th edition, Oxford University Press.























