【ことわざ】
川越して宿を取れ
【読み方】
かわこしてやどをとれ
【意味】
するべきことや難しいことは後回しにせず、できるうちに先に片づけておくのがよいという教え。先の障害を考え、あとで困らないように手を打つことをいう。


【英語】
・Never put off until tomorrow what you can do today.(今日できることを明日まで延ばすな)
【類義語】
・川を前に控えて宿るな(かわをまえにひかえてやどるな)
・今日できることを明日まで延ばすな(きょうできることをあすまでのばすな)
「川越して宿を取れ」の語源・由来
「川越して宿を取れ」は、旅の途中で川を越す必要があるなら、川の手前で宿を取らず、先に川を渡ってから宿を取れ、という実際の旅の知恵から生まれたことわざです。川を越えることをあと回しにすると、天候や増水によって渡れなくなる危険がありました。
このことわざの背景には、江戸時代の街道の旅があります。江戸時代、大きな河川には橋がほとんどかけられず、旅人は船や徒歩に頼って川を渡るほかありませんでした。
とくに東海道の大井川(おおいがわ)は、旅人にとって大きな難所として知られていました。橋がなく、流れも急で、旅人は川越人足(かわごしにんそく)の肩や連台(れんだい:人を乗せて担ぐ台)に乗って渡るしかありませんでした。
大井川では、川を渡る仕組みとして川越制度(かわごしせいど)が整えられました。元禄9年、すなわち1696年に制度ができ、川会所(かわかいしょ)で川札(かわふだ:川越人足を雇うための札)などを扱い、その日の水深や川幅に応じて渡し方や料金を決めました。
川越しのできる時間も決まっていました。明六ッ、つまり午前六時ごろから、暮六ッ、つまり午後六時ごろまでとされ、旅人はその時間内に川会所で川札を買い、川越人足に手渡してから川を越しました。
川の水が増えると、川留め(かわどめ)になりました。大井川では、水位が四尺五寸、約136センチを超えると川留めとなり、雨で増水すれば旅人は川を渡れなくなりました。
川留めになると、旅人は川の両岸にある宿場で待たなければなりませんでした。大井川では、川をはさんで島田宿(しまだしゅく)と金谷宿(かなやしゅく)があり、川留めのあいだ、旅人はそこで逗留(とうりゅう:しばらく滞在すること)することになりました。
雨で増水したときには、川留めが長く続くこともありました。大井川では、最高で28日間川留めが続いた記録もあり、「越すに越されぬ大井川」と言われるほど、旅人にとって重い心配事でした。
このような状況では、川の手前で早く休むことだけを考えて宿を取ると、翌日に川が渡れなくなるおそれがありました。反対に、その日のうちに川を越しておけば、たとえ翌日に雨が降っても、旅の大きな難所をすでに越えた安心がありました。
そこから、「宿を取る」という休息よりも、「川を越す」という難しい用事を先にすませるべきだ、という教えが生まれました。このことわざの「川」は、あと回しにすると大きな障害になるもののたとえとして働いています。
現在では、実際の旅だけでなく、勉強、仕事、家の用事、計画づくりなどにも広く用いられます。面倒なことを先に片づければ、あとで安心して次のことに進めるという、日常生活にも通じる戒めとして使われています。
「川越して宿を取れ」の使い方




「川越して宿を取れ」の例文
- 宿題の難しい問題を先に解くのは、川越して宿を取れという考えに合っている。
- 明日の朝に慌てないよう、今夜のうちに持ち物をそろえるのは川越して宿を取れの実践だ。
- 大事な申請書を締め切り前に出しておくべきだと、上司は川越して宿を取れと言った。
- 旅行の前に交通手段を確認しておくのは、川越して宿を取れという教えにかなう。
- 面倒な話し合いを後回しにせず先にすませたことで、川越して宿を取れの大切さを感じた。
- 試験勉強では苦手な単元から取りかかるほうがよく、まさに川越して宿を取れである。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・島田市博物館『川越制度の歴史』島田市、2024年。
・島田市公式ホームページ『かけがえのない存在「大井川」』島田市、2013年。
・一般社団法人島田市観光協会『大井川川越遺跡』。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary』.























