【故事成語】
河は委蛇を以ての故に能く遠し
【読み方】
かわはいいをもってのゆえによくとおし
【意味】
大きなことを成し遂げるには、焦ってまっすぐ進もうとするだけでなく、状況に合わせて柔軟に進むことが大切であるというたとえ。


【英語】
・Slow and steady wins the race.(ゆっくりでも着実なら成功する)
【類義語】
・急がば回れ(いそがばまわれ)
・千里の道も一歩から(せんりのみちもいっぽから)
・柔能く剛を制す(じゅうよくごうをせいす)
【対義語】
・猪突猛進(ちょとつもうしん)
「河は委蛇を以ての故に能く遠し」の故事
「河は委蛇を以ての故に能く遠し」は、中国・漢代の説話集『説苑(ぜいえん)』に由来する言葉です。『説苑』は二十巻からなり、前漢の劉向が編んだ書物で、君主や臣下のあり方、政治や人の生き方に関わる逸話や教えを集めています。
この言葉は、『説苑』巻十六「談叢(だんそう)」に出てきます。「談叢」は、いろいろな教えを短い言葉で重ねて述べる篇で、自然や人の行いをたとえにしながら、ものごとの道理を示しています。
原文には「河以委蛇故能遠,山以凌遲故能高,道以優游故能化,德以純厚故能豪」とあります。これは、川は曲がりくねって流れるから遠くまで行くことができ、山はゆるやかに高まるから高くなり、道はゆったり広く行きわたるから人を教え導き、徳は厚く積もるから大きな力をもつ、という意味に読めます。
「河」は、古くは中国で大きな川、特に黄河を指すことのある字です。ここでは、まっすぐ一気に進む水路ではなく、地形に従って曲がりながら流れる大きな川の姿が、たとえとして使われています。
「委蛇」は、「いい」または「いだ」と読まれ、曲がりくねったさまを表します。この故事成語では、川が地形に逆らわず、うねりながら流れていく様子を表す言葉として働いています。
川は、山や谷、地面の高低にぶつかるたび、強引にまっすぐ突き進むわけではありません。曲がるべきところで曲がり、低いところをたどりながら進むため、かえって遠くまで流れることができます。
この発想は、人の生き方や大きな仕事にも重ねられます。大きな目標に向かうとき、ただ一直線に急ぐだけでは、壁にぶつかったり、周囲との調和を失ったりして、かえって先へ進めなくなることがあります。
『説苑』の同じ一節では、川だけでなく、山・道・徳も並べて語られています。どのたとえも、無理に一気に大きくなるのではなく、自然な形で積み重なり、ゆるやかに広がることで、大きな働きに至るという考えを示しています。
そのため、「河は委蛇を以ての故に能く遠し」は、単に「遠回りをせよ」という意味だけではありません。状況をよく見て、柔らかく進み方を変えながら、最後まで続けることの大切さを表す言葉です。
現在の日本語では、勉強、仕事、計画、人間関係などで、急ぎすぎず、段階を踏んで進むほうがよい場面に用いられます。川の流れのように、曲がりながらも止まらず進む姿が、大きな目標へ向かう知恵として受け継がれています。
「河は委蛇を以ての故に能く遠し」の使い方




「河は委蛇を以ての故に能く遠し」の例文
- 新しい店を成功させるには、河は委蛇を以ての故に能く遠しの心で、地域の人の声を聞きながら少しずつ進める必要がある。
- 大会で勝ちたいからといって無理な練習を続けるより、河は委蛇を以ての故に能く遠しと考えて、体調に合わせた計画を立てるほうがよい。
- 大きな研究は一度で完成しないので、河は委蛇を以ての故に能く遠しのように、途中の発見を生かしながら進めることが大切だ。
- 海外で仕事を広げるには、河は委蛇を以ての故に能く遠しという姿勢で、相手の文化や習慣に合わせる力が求められる。
- 難しい本を読むときは、河は委蛇を以ての故に能く遠しと思い、分からない章を飛ばさず、順に理解していくほうが身につく。
- 友人との話し合いでは、河は委蛇を以ての故に能く遠しの考え方で、相手の事情に合わせて解決の道を探した。
主な参考文献
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・劉向編『説苑』成立年未詳。
・Dictionary.com『Dictionary.com Unabridged』Random House, 2023.























