【ことわざ】
金は天下の回り物
【読み方】
かねはてんかのまわりもの
【意味】
金銭は一人のもとにとどまり続けるものではなく、世の中を巡っていくということ。今は金がなくても、いつか自分のもとへ回ってくることがあるという励ましにも用いる。


【英語】
・Money comes and goes.(お金は入ってきたり出ていったりする)
【類義語】
・金銀は回り持ち(きんぎんはまわりもち)
【対義語】
・金は片行き(かねはかたいき)
「金は天下の回り物」の語源・由来
「金は天下の回り物」の「金」は、金属としての金ではなく、金銭を指します。「天下」は世の中全体を、「回り物」は一か所にとどまらず、人から人へと移っていくものを意味します。
このことわざは、金を持っている人がいつまでも持ち続けるとは限らず、今は持たない人にも、いずれ回ってくることがあると説いています。富と貧しさは変わらないものではなく、世の中の動きにつれて入れ替わるという見方が、もとになっています。
現在の形が現れるより前から、金銭を「回り持ち」と表す言い方がありました。「回り持ち」とは、一人や一つの家だけが持つのではなく、順に持ち主が替わることです。
『日本永代蔵(にほんえいたいぐら)』(1688年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、「金銀はまはり持」とあります。金銀は世の中を巡るものであり、努力しだいでは蓄えることもできるという文脈で使われています。
この段階では、まだ「天下の回り物」という形ではありません。しかし、金銭は特定の人のもとに固定されず、持ち主を替えながら巡るという、現在のことわざにつながる考えが、すでに表れています。
同じ井原西鶴の『世間胸算用(せけんむねさんよう)』(1692年・江戸時代前期)にも、「世は廻り持のたからなれば」とあります。小判を受け取った人が、それをまた先へ渡していく場面で、金銭が人の手から手へと移る様子を具体的に表しています。
ここでいう「回り持ち」は、持ち主が順に替わるという意味です。金銭が実際に受け渡される動きと、富や貧しさが人々の間を巡るという考えとが重なり、後のことわざの土台になったと考えられます。
現在の言い方に近い古い用例は、歌舞伎『上総綿小紋単地(かずさもめんこもんのひとえじ)』(1865年・江戸時代末期、河竹黙阿弥著)にあります。そこには、「金は世界の廻りもの」と記されています。
この場面では、秋に花が散っても、再び春が巡って花が咲くように、失った金もまた巡ってくるという趣旨が述べられています。「天下」ではなく「世界」となっていますが、金銭は世の中を循環するという意味は、現在と同じです。
「金は天下の回りもの」には、「世界」と「天下」、「回りもの」と「回り持ち」などの形がありました。意味の近い言い方が並んで使われながら、しだいに「金は天下の回り物」という形へとまとまっていきました。
馬角斎編纂『日本俚諺大全(にほんりげんたいぜん)』(1908年・明治時代後期)には、「金は天下の廻り物」と載っています。このころには、現在とほぼ同じ形が、ことわざとして用いられていました。
その後、林芙美子の『放浪記(ほうろうき)』(昭和3〜4年、林芙美子著)にも、「金は天下のまわりものだって言うけど」という用例が出てきます。近代には、苦しい暮らしの中でも、いつか金が巡ってくるかもしれないという希望を表す、身近な言葉として使われていました。
このことわざは、単に金を使ってもよいと勧める言葉ではありません。金は一人のものとして永久にとどまらず、得ることも失うこともあるため、今ない人には希望を与え、今ある人には思い上がらないよう戒める言葉です。
「金は天下の回り物」の使い方




「金は天下の回り物」の例文
- 店の売上が落ちても、父は金は天下の回り物と考えて、地道に商売を続けた。
- 臨時収入に浮かれる兄へ、母は金は天下の回り物だから使い過ぎるなと戒めた。
- 寄付されたお金が地域の店や働く人へ渡る様子は、金は天下の回り物という言葉を思わせる。
- 収入が減ったときも、祖父は金は天下の回り物と言って家族を励ました。
- 会社の利益を設備や人材へ回すことは、金は天下の回り物という考えにも通じる。
- 一時の豊かさに安心しすぎないよう、金は天下の回り物という教えを心に留めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・馬角斎編纂『日本俚諺大全』滑稽新聞社、1908年。
・井原西鶴『日本永代蔵』1688年。
・井原西鶴『世間胸算用』1692年。
・河竹黙阿弥『上総綿小紋単地』1865年。























