【ことわざ】
傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ
【読み方】
かさとちょうちんはもどらぬつもりでかせ
【意味】
傘や提灯は、用が済むと返すのを忘れられやすいので、貸すなら戻ってこない覚悟で貸せという戒め。


【類義語】
・唐傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ(からかさとちょうちんはもどらぬつもりでかせ)
「傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ」の語源・由来
「傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ」は、昔の暮らしの中で、傘と提灯が人から借りられやすい一方、用が済むと返却を忘れられやすかったことから生まれたことわざです。特定の人物の逸話ではなく、物の貸し借りをめぐる日常の経験を、短い戒めにした言い方です。
このことわざの「傘」は、古い形では「唐傘」ともいいます。「唐傘」は、割り竹を骨にして紙を張り、油を引き、柄と轆轤(ろくろ)を付けて、開閉できるようにした差し傘を指します。
「からかさ」という言葉は、『宇津保物語(うつほものがたり)』(970〜999年ごろ成立・平安時代中期)の中にも出てきます。作中では、岩へ落ちかかる滝の姿を、柄を差した唐傘にたとえており、この言葉が古くから用いられていたことが分かります。
ただし、雨を防ぐための差し傘が庶民にとって身近な道具となったのは、さらに後の時代です。江戸時代には、油を引いた紙張りの雨傘が広まり、元禄年間(1688〜1704年)ごろから町の人々にも用いられ、のちに番傘や蛇の目傘など、さまざまな種類が作られました。
一方の「提灯」は、紙を張った枠の中に蝋燭(ろうそく)をともす灯火具です。初めは一か所につるす形でしたが、やがて手に持って運べるようになり、天正・文禄年間(1573〜1596年)ごろには、折り畳める形へと発達しました。
江戸時代に入ると、提灯は、夜道を歩くときの明かりや目印として広く用いられました。小さく畳んで持ち歩ける小田原提灯や、棒の先につるして歩くぶら提灯などもあり、暗い道を行き来する人々に欠かせない道具となりました。
傘は、出先で急に雨が降ったときに借りる物です。しかし、返しに行くころには雨がやみ、晴れた日に傘を持って出かけることを面倒に思って、つい返却を先延ばしにしがちです。
提灯も、夜遅くなり、暗い道を帰るときに借りますが、返しに行くのは明るい昼間です。昼間には使わない提灯をわざわざ下げて歩く必要がないため、返す機会を逃し、そのまま忘れてしまいやすかったのです。
このように、傘と提灯には、「必要になるのは限られた天候や時間だけ」という共通点があります。借りるときには大いに役立っても、用が済んだ瞬間に持ち歩く理由がなくなるため、ほかの道具よりも返却を忘れられやすいものとして並べられました。
「戻らぬつもりで貸せ」は、借りた人が必ず不誠実だという意味ではありません。返却を期待しすぎて後から腹を立てたり、人間関係を損ねたりしないよう、貸す側があらかじめ覚悟しておくべきだと説く言い方です。
このことわざには、「唐傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ」という形もあります。「唐傘」が一般的な「傘」に置き換わり、現代では「傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ」という形でも広く掲げられています。
つまり、このことわざは、傘と提灯という昔の生活道具の性質を通して、物を貸すときには、返らない可能性まで考えておくよう教えています。親切に貸すことを否定するのではなく、貸した後に困らない物を選び、返却を当てにしすぎないという現実的な知恵を伝えることわざです。
「傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ」の使い方




「傘と提灯は戻らぬつもりで貸せ」の例文
- 傘と提灯は戻らぬつもりで貸せというから、大切な傘ではなく、予備の傘を貸すことにした。
- 祖母は傘と提灯は戻らぬつもりで貸せと言い、貸した物が返らなくても困らないよう気を付けていた。
- 傘と提灯は戻らぬつもりで貸せの教えどおり、店では貸し傘に番号と店名を書いている。
- 学校の貸し傘がなかなか戻らず、先生は傘と提灯は戻らぬつもりで貸せとはよく言ったものだと思った。
- 傘と提灯は戻らぬつもりで貸せという言葉を思い出し、彼は高価な道具を安易に貸さなかった。
- 町内会では、傘と提灯は戻らぬつもりで貸せを心得て、貸出品の返却日を記録することにした。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・『日本大百科全書』小学館、1994年。
・青木雨彦『ことわざ雨彦流』講談社、1993年。
・『宇津保物語』970〜999年ごろ成立。























