【ことわざ】
裃を着た盗人
【読み方】
かみしもをきたぬすびと
【意味】
役人でありながら、職権を利用して私利私欲をはかる者のたとえ。汚職官吏をいう。


【英語】
・a corrupt official.(汚職をする役人)
・a wolf in sheep’s clothing.(善良そうに見えて、実は危険または不正な人)
【類義語】
・衣冠の盗(いかんのとう)
・汚吏(おり)
・貪官汚吏(たんかんおり)
【対義語】
・清廉潔白(せいれんけっぱく)
「裃を着た盗人」の語源・由来
「裃を着た盗人」は、正しい立場にあるように見える人が、実際には盗人のような不正をするというたとえから生まれたことわざです。「裃」は、江戸時代の武士の礼装や出仕着として用いられた服装を指します。
「裃」は「上下」とも書かれ、もとは上衣と下衣が同じ質・同じ色・同じ紋でそろっている服装を広く指しました。十七世紀以降には、肩衣(かたぎぬ)と袴(はかま)を組み合わせた服装が、武士の出仕着や日常着として用いられ、これを裃と呼ぶようになりました。
肩衣は、室町末期から素襖(すおう)の略装として用いられた武士の公服で、袖を取り除いた上着です。袴と合わせて、上下が同じ地質・同じ色の場合に裃といい、江戸時代には礼装とされました。
そのため、「裃を着た人」は、ふつうは改まった場にふさわしい、身分や役目をもつ人として受け取られます。ことわざでは、そのきちんとした外見と、「盗人」という不正な中身を強く対比しています。
「盗人」は、他人の持ち物を盗み取る者、つまり物取りや盗賊を指します。この言葉を役人に重ねることで、職務を正しく果たすべき人が、かえって人の財物や利益を奪うような行いをしていることを表します。
このことわざの意味は、単に服装が立派な悪人というだけではありません。役人でありながら、その職権を利用して私利私欲をはかる者、また汚職官吏を指すところに、言葉の重みがあります。
類義語の「衣冠の盗」も、身分や官職にふさわしい装いをしていながら、実は盗人のような行いをする者をいう表現です。「衣冠」は、衣服と冠、または天子・皇帝に仕える人や、平安時代以後の装束を指す言葉です。
「裃」が江戸時代の武士の礼装を思わせるのに対し、「衣冠」は宮廷や官人の装束を思わせる言葉です。どちらも、立派な服装や公的な身分を表す言葉を用いて、外見の正しさと中身の不正との落差を示しています。
似た意味をもつ「汚吏」は、不正なことをして私利を求める官吏を指します。また「貪官汚吏」は、職権を悪用して悪事を働く役人をいう表現です。これらの言葉も、役目をもつ人がその立場を汚すという点で、「裃を着た盗人」と近い意味をもっています。
現在では、昔の役人だけでなく、会社や団体などで責任ある立場を利用して利益を得る人を批判するときにも使えます。ただし、強い非難を含むことわざなので、実際の人に向けて使う場合は、事実にもとづいて慎重に用いる必要があります。
「裃を着た盗人」の使い方




「裃を着た盗人」の例文
- 会計を任された役員が寄付金を私用に使っていたとは、裃を着た盗人そのものだ。
- 市民のために働くべき立場で賄賂を受け取るなど、裃を着た盗人と言われても仕方がない。
- 会社の備品を勝手に売って利益を得た管理職は、裃を着た盗人のような人物だった。
- 規則を作る側の人間が裏で不正をしていたのだから、裃を着た盗人とはこのことだ。
- 人々の信頼を集める役目にありながら私腹を肥やす者は、裃を着た盗人と非難される。
- 立派な肩書きを持っていても、職権を悪用すれば裃を着た盗人にすぎない。
主な参考文献
・現代言語研究会編『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・HarperCollins Publishers『Collins English Dictionary』HarperCollins Publishers.
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press.























