【ことわざ】
親苦労する、その子楽する、孫乞食する
【読み方】
おやくろうする、そのこらくする、まごこじきする
【意味】
親は苦労して財産を築き、その子はその財産を使って楽をし、孫は財産が尽きて乞食にまで落ちぶれるということ。親の苦労を無駄にせず、受け継いだ財産を浪費しないよう戒める言葉。


【英語】
・From shirtsleeves to shirtsleeves in three generations(一代が築いた富も三代目には失われる)
【類義語】
・売り家と唐様で書く三代目(うりいえとからようでかくさんだいめ)
・長者三代(ちょうじゃさんだい)
「親苦労する、その子楽する、孫乞食する」の語源・由来
このことわざは、親・子・孫という三つの世代を順に並べ、財産が築かれてから失われるまでの流れを、短い言葉で表したものです。「乞食」は、他人から食物や金銭を恵んでもらって暮らす人を指し、ここでは、家の財産をすべて失って困窮(こんきゅう)することを強く表しています。
古い用例は、『世間子息気質(せけんむすこかたぎ)』(1715年・江戸時代中期、江島其磧著)に出てきます。この作品は、全五巻五冊の浮世草子(うきよぞうし)で、当時の若者のさまざまな性質や、商人の家に育った息子たちの暮らしを描いています。
巻一の初めには、「むかし誰かいひけん、『親苦労する其子楽する孫乞食する』と」とあります。昔、誰が言ったのであろうか、「親が苦労すれば、その子は楽をし、孫は乞食になる」と語った、という意味です。
これに続いて、親は一年中つつましく暮らし、少しでも多くの金を子に残そうとして、黒い髪が白くなるまで働くと書かれています。親の代が身を削るように働いたため、子の代には生活が豊かになり、苦労せずに暮らせるようになるという流れです。
ところが、作品の序文には、裕福な家の子が甘やかされて育ち、自分の家の仕事を軽んじ、芸事や遊びに夢中になって、親から譲られた金を使い果たす様子が記されています。「その子楽する」の「楽」は、心静かに休むという意味ではなく、親の財産に頼り、自ら働いて家を支えることを怠る暮らしを表しています。
『世間子息気質』は、この言葉を「むかし誰かいひけん」と紹介しています。この言い出し方から、江島其磧がその場で作ったのではなく、1715年より前から人々の間で語られていた言葉を、作品の中に書き留めたものと考えられます。ただし、最初に誰が言い始めたのかは明らかではありません。
「苦労」の代わりに「辛働(しんど)」を用い、「親辛働するその子楽する孫乞食する」と表す形もあります。「辛働」は、つらい思いをしながら懸命に働くことを強く印象づけますが、親が築いた財産を子が使い、孫の代で失うという意味の流れは同じです。
後には、祖父が築いた財産を孫がぜいたくによって傾けることを表す「長者三代」や、三代目が本業を怠り、家を売るまでに没落(ぼつらく)する「売り家と唐様で書く三代目」も使われるようになりました。これらが直接このことわざから生まれたとは限りませんが、受け継いだ富を守り続ける難しさを表す点で共通しています。
このことわざは、どの家も必ず三代目で衰えると決めつけたものではありません。財産を受け継いでも、先人の苦労を忘れ、自ら働くことや財産を守る努力を怠れば、その豊かさは次の世代まで続かないと戒めているのです。
「親苦労する、その子楽する、孫乞食する」の使い方




「親苦労する、その子楽する、孫乞食する」の例文
- 祖父が築いた工場を父が放漫な経営で傾け、孫が借金を背負った経緯は、親苦労する、その子楽する、孫乞食するの典型だった。
- 親苦労する、その子楽する、孫乞食するというから、受け継いだ財産に頼らず、自分でも働くべきだ。
- 老舗旅館が三代目で廃業した話を聞き、親苦労する、その子楽する、孫乞食するという戒めの重さを知った。
- 母は、親苦労する、その子楽する、孫乞食するにならないよう、家業の技術と帳簿の見方を子どもに教えた。
- 創業者の努力を忘れて浪費を重ねれば、親苦労する、その子楽する、孫乞食するという結末を招く。
- 祖父の残した土地を次々に売る兄の姿に、弟は親苦労する、その子楽する、孫乞食するという言葉を思い出した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・江島其磧著、中嶋隆訳注『世間子息気質・世間娘容気―江戸の風俗小説』社会思想社、1990年。
・江島其磧『世間子息気質』1715年。
・Elizabeth Knowles編『Oxford Dictionary of Phrase and Fable, 2nd ed.』Oxford University Press、2005年。























