【慣用句】
灰燼に帰す
【読み方】
かいじんにきす
【意味】
跡形もなくすっかり焼けてしまうこと。焼けて、もとの形をとどめないほどになること。


【英語】
・be reduced to ashes(焼けて灰になる)
・go up in flames(炎に包まれて焼失する)
【類義語】
・灰土に帰す(かいどにきす)
・焦土と化す(しょうどとかす)
・烏有に帰す(うゆうにきす)
【対義語】
・再建(さいけん)
・復興(ふっこう)
「灰燼に帰す」の語源・由来
「灰燼に帰す」のもとになる「灰燼」は、灰と燃え残りを表す漢語です。「灰」は燃えたあとに残る粉、「燼」は燃えさしや燃え残りを指し、合わせて、火によって物が焼け尽くされたあとの姿を表します。日本語では「焼け尽きた灰と、燃えさし」という意味で用いられ、建物などが焼け滅びて跡形もなくなるさまを表す言葉として定着しました。
中国の古い文章では、『文選』巻五十二に収められた曹冏の「六代論」に、「宗廟焚為灰燼,宮室變為蓁藪」とあります。これは、祖先を祭る建物が焼けて灰となり、宮殿が草木の茂る荒れ地に変わった、という意味です。「灰燼」はこの段階で、単なる灰ではなく、国家や都の中心となる建物が火によって失われる重い場面に用いられています。
日本の古い漢文にも「灰燼」は早くから現れます。『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』(1058年ごろ成立、藤原明衡編)に収められた「改元詔」には、「宮室之為灰燼焉」とあり、宮殿が火災によって灰になったことを述べています。ここでも「灰燼」は、家や宮殿がただ壊れたのではなく、火に焼かれて形を失った状態を表しています。
和文の中では、『方丈記(ほうじょうき)』(1212年・鎌倉時代前期、鴨長明著)の安元の大火の場面に、「七珍萬寳、さながら灰燼となりにき」とあります。逃げるだけで精いっぱいになり、財産を持ち出すこともできず、貴重な宝物がすべて灰になったという文脈です。この用例では、「灰燼となる」という形で、大火によって物が完全に焼け失われる意味がはっきり示されています。
その後、「灰燼」は「なる」「化す」「帰す」と結びつき、焼けて最終的に灰の状態になることを表す言い方として使われました。室町時代後期の公家である三条西実隆の日記『実隆公記(さねたかこうき)』には、文明九年(一四七七年)の記事として「仙洞又化灰燼」という形が伝わり、御所が火によって灰になったことを漢文調に記しています。
「帰す」は、ある結果に行き着くことを表す言葉です。「灰燼に帰す」は、もとの建物や財産の姿が火によって失われ、ついには灰と燃え残りの状態へ行き着く、という意味の言い回しとしてまとまりました。近代の作品にも「灰燼に帰する」という形が出ており、強い火の手や暴風によって都が一夜のうちに焼け失われそうな場面で用いられています。
現在の「灰燼に帰す」は、主に火災・戦災・大規模な災害などで、建物や町、貴重な資料などが跡形もなく焼けてしまう場合に使います。古くは「灰燼となる」「灰燼と化す」といった形でも用いられましたが、いずれも、火によって形あるものが失われ、灰だけが残るという重い意味につながっています。
「灰燼に帰す」の使い方




「灰燼に帰す」の例文
- 大火で旧市街の木造家屋が灰燼に帰すほどの被害を受けた。
- 戦災で貴重な蔵書が灰燼に帰す前に、一部だけが別の場所へ移されていた。
- 隣家から出た火が広がり、祖父の工房が灰燼に帰す結果となった。
- 山火事で村の集会所が灰燼に帰す事態を防ぐため、住民は早く避難した。
- 文化財が灰燼に帰すことのないよう、寺では防火設備を整えた。
- 長年集めた資料が灰燼に帰す様子を見て、研究者は言葉を失った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・小学館『大辞泉』編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・藤原明衡編『本朝文粋』1058年ごろ成立。
・鴨長明『方丈記』1212年。
・三条西実隆『実隆公記』1474〜1536年。
・蕭統編『文選』6世紀前半。























