【ことわざ】
思う事言わねば腹ふくる
【読み方】
おもうこといわねばはらふくる
【意味】
心に思っていることを言わずにいると、不満や気掛かりが内にたまり、腹に物がつかえたように気持ちが晴れないということ。


【英語】
・speak one’s mind(思っていることを率直に言う)
【類義語】
・言わぬは腹ふくる(いわぬははらふくる)
【対義語】
・言わぬが花(いわぬがはな)
「思う事言わねば腹ふくる」の語源・由来
「腹ふくる」は、もともと、腹が大きくなることや、食べ物で満腹になることを表します。そこから、言いたいことを心にため込むと、腹の中に物が詰まったように気持ちが重くなるという比喩的な意味でも使われるようになりました。
この比喩の古い用例は、『大鏡(おおかがみ)』(11世紀末から12世紀初めごろ成立、平安時代後期、作者未詳)の序にあります。『大鏡』は、京都の雲林院(うりんいん)に集まった大宅世継(おおやけのよつぎ)と夏山繁樹(なつやまのしげき)という二人の老人が、昔の宮廷の出来事を語り合う形で進む歴史物語です。
二人は、胸にたまっていた話を語ったあと、「おぼしきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける」と述べます。これは、思っていることを言わずにいると、本当に腹が張るような気持ちがするという意味です。続けて、昔の人は話したいことがあると穴を掘り、その中へ言葉を吹き込んだのだろう、と語っています。
ここでの「おぼしきこと」は、心に思っていることや、言いたいと感じていることです。「腹ふくるる」は、実際に腹が膨らむことではなく、言葉をのみ込んだために不満や思いが内にこもり、心が晴れない状態を表しています。
その後、『徒然草(つれづれぐさ)』(1331年ごろ・鎌倉時代末期、兼好著)の第十九段にも、「おぼしき事言はぬは腹ふくるるわざなれば」とあります。兼好は、春から冬までの季節の趣を次々に書き、同じような話はすでに『源氏物語』や『枕草子』にもあるが、今さら書くまいとは思わない、と述べます。
そして、思っていることを言わずにいると腹が膨れるものだから、筆に任せて書いているのだと続けます。『大鏡』では、老人たちが胸の内を語る場面に使われましたが、『徒然草』では、心に浮かんだことを文章に書き表す理由として用いられています。
明治18年に初演された河竹黙阿弥の歌舞伎『水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)』には、「我思ふ事言はで過ぎなば、腹ふくるる古言のならひ」とあります。言わずに済ませようと思っても、胸の内にあることを黙ったままでは苦しいという場面で、「古言」、つまり昔からの言い伝えとして引かれています。
古くは「おぼしき事言はぬは腹ふくるる」と表されましたが、後には、「おぼしき」が日常的な「思う」に、「言はぬ」が「言わねば」に変わり、現在の「思う事言わねば腹ふくる」という形に整いました。「脹る」「膨る」と書く場合もありますが、「腹ふくる」と仮名で書く形も広く用いられています。
このことわざは、思ったことを何でも無遠慮に口にすべきだと勧めるものではありません。言葉をのみ込み続ければ心に不満がたまり、気持ちが晴れなくなるという人の心のあり方を、腹が膨らむ様子にたとえた表現です。
「思う事言わねば腹ふくる」の使い方




「思う事言わねば腹ふくる」の例文
- 思う事言わねば腹ふくるというから、私は班の計画に対する疑問を正直に伝えた。
- 弟は不満を黙って抱えていたが、思う事言わねば腹ふくると母に諭され、事情を話し始めた。
- 思う事言わねば腹ふくるという言葉どおり、友人に悩みを打ち明けると心が軽くなった。
- 会議で意見をのみ込んだ部長は、思う事言わねば腹ふくると考え直し、改めて改善案を提出した。
- 家族に心配をかけまいと黙っていたものの、思う事言わねば腹ふくるので、進路への迷いを相談した。
- 地域の計画に疑問を抱いた住民は、思う事言わねば腹ふくると、説明会で穏やかに質問した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000~2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・橘健二・加藤静子校注・訳『新編日本古典文学全集34 大鏡』小学館、1996年。
・西尾実・安良岡康作校注『新訂 徒然草』岩波書店、1985年。
・河竹黙阿弥『水天宮利生深川』1885年。























