【ことわざ】
選んで粕を掴む
【読み方】
えらんでかすをつかむ
【意味】
えり好みが過ぎて、かえってつまらないもの、悪いものを選んでしまうこと。


【英語】
・choice overload(選択肢が多すぎて、かえって選びにくくなったり悪い結果を招いたりする状態)
【類義語】
・選れば選り屑(よればよりくず)
【対義語】
・残り物には福がある(のこりものにはふくがある)
「選んで粕を掴む」の語源・由来
「選んで粕を掴む」は、よいものを得ようとしてあれこれ選んだのに、最後には価値の低いものを手にしてしまう、という形で成り立つことわざです。意味の中心は、選ぶことそのものを否定する点ではなく、えり好みが過ぎると、かえって判断を誤ることがあるという戒めにあります。
この言葉の要になるのは、「粕」という語です。酒粕は、清酒のもろみをしぼったあとに残るものを指し、もとは酒造りに関わる具体的な物の名です。
「酒の粕」は、15世紀後半の『和玉篇』に、酒粕を指す言葉として出てきます。この段階では、酒をしぼったあとに残る実物としての意味が基本です。
そこから「粕」は、よい部分を取ったあとの残り、さらに価値の低いもののたとえとしても用いられるようになります。「酒の粕」には、価値のないもののたとえという意味もあり、江戸時代中期の歌舞伎『金門五山桐(きんもんごさんのきり)』にも、その意味での用例が出てきます。
『金門五山桐』は、1778年・江戸時代中期に大坂で初演された、初世並木五瓶作の歌舞伎です。盗賊石川五右衛門を題材にした作品で、のちに「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」の名でも上演されました。
一方、「選んで」のもとになる「選る」は、多くの中から選び取る、よりぬく、という意味を持つ言葉です。『宇津保物語』(970〜999年ごろ成立、平安時代中期)にも、「えらびすぐりたる」という形で、選び抜く意味の用例が出てきます。
また、「選り好み」は、自分の好きなものだけを選び取ることを表します。この「好きなものだけを選ぶ」という意味が強くなりすぎると、判断の幅が狭まり、よい機会を逃すことがあります。
「選んで粕を掴む」は、この「選ぶ」と「粕を掴む」を対照させた言い方です。よいものをつかむはずの行為が、反対につまらないものをつかむ結果になるため、言葉そのものに皮肉な味わいがあります。
表記には、「選んで粕を摑む」という字体も用いられます。「摑む」は「掴む」と同じく、手に取る、手に入れるという意味を表す字形です。
近い言い方に「選れば選り屑」があります。これは、慎重に選びすぎて、かえって悪いものをつかむという意味で、「選んで粕を掴む」と同じ発想を、より短く言い表したものです。
現在では、品物を選ぶ場合だけでなく、人や機会を選ぶ場合にも使われます。条件を細かくしすぎて大切なものを見落とすと、せっかく選んだはずが、結果としてよくないものを得ることになる、という教訓を伝えることわざです。
「選んで粕を掴む」の使い方




「選んで粕を掴む」の例文
- 何軒も店を回って選んだ靴がすぐに壊れ、選んで粕を掴む結果になった。
- 条件を細かくしすぎて良い候補を断り続けたため、最後は選んで粕を掴むことになった。
- 評判だけを見て高い商品を買ったが、使いにくくて選んで粕を掴む思いをした。
- 宿泊先を長く迷った末に選んだホテルが駅から遠く、選んで粕を掴むとはこのことだと思った。
- 人の意見を聞かずにえり好みばかりしていると、選んで粕を掴むこともある。
- 選んで粕を掴むことを避けるには、条件を増やしすぎず、大事な点を見極める必要がある。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・ブリタニカ・ジャパン『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』。
・日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。























