【ことわざ】
えぐい渋いも味のうち
【読み方】
えぐいしぶいもあじのうち
【意味】
えぐみや渋みのような好まれにくい味も、ほどよく残れば、その食べ物らしい独特の味わいの一部になるということ。


「えぐい渋いも味のうち」の語源・由来
「えぐい渋いも味のうち」は、「えぐい」と「渋い」という二つの味の表現を並べ、それらも広い意味での「味」に含まれると述べたことわざです。甘さやうまさだけでなく、素材が本来もつ癖も、味わいを形づくるという考えを表しています。
「えぐい」は、古くは「ゑぐい」と書き、灰汁(あく)が強く、喉や舌を刺激するような味を指しました。現在でも、山菜などを食べたときに残る、いがらっぽい刺激を表す言葉として使われています。
この言葉は、『和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)』(934年ごろ・平安時代中期、源順編)の二十巻本にも載っています。したがって、「えぐい」という味の表現そのものは、平安時代にまでさかのぼる古い言葉です。
「えぐみ」という名詞も、江戸時代には、食べ物の味を表す言葉として使われていました。橘南谿の紀行・随筆『西遊記(さいゆうき)』続編(1798年・江戸時代後期)には、ある草について、「久しく煮ざれば、ゑぐみありて食しがたく」とあります。
これは、長く煮なければえぐみが残って食べにくい、という意味です。えぐみが、山野草や野菜の調理と深く結び付いた言葉であったことが分かります。
一方の「渋い」は、渋柿を食べたときのように、舌がしびれたり、口の中が引き締まったりする味を表します。西大寺本の『金光明最勝王経(こんこうみょうさいしょうおうきょう)』(830年ごろの訓点資料)には、「苦く渋くして滋き味無けむ」とあり、味を表す古い用例が残っています。
えぐみは、タケノコ、里芋、山野草などに含まれる、一般に灰汁と呼ばれる成分によって生じます。渋みは、茶や渋柿などに含まれるタンニンによって、口の中が収縮するように感じる刺激です。
このため、えぐみと渋みは、甘味や塩味のような基本的な味だけでは捉えきれません。舌や喉への刺激も加わって生まれる、食べ物全体の味わいにかかわる要素です。
山菜や野草を調理するときには、灰汁を抜いて食べやすくします。しかし、えぐみや渋みを完全に取り去ると、野性的な風味や素材本来の個性まで弱くなることがあります。
そこで、少し癖のある味も、その食べ物らしさを生み出す大切な要素だという考えが、「えぐい渋いも味のうち」という簡潔な形にまとめられました。「味のうち」は、好ましい味だけでなく、一見すると欠点に思える味まで包み込む言い方です。
ただし、強すぎるえぐみや渋みまで、そのままでよいという意味ではありません。このことわざが重んじるのは、食べにくさを残すことではなく、素材の特徴を損なわない程度に、持ち味を生かすことです。
また、ここでの「えぐい」は、現代の会話で使う「ひどい」「強烈だ」「すごい」などの意味ではありません。古くからある、灰汁が強く、喉や舌を刺激するという、本来の味覚上の意味で使われています。
このように、「えぐい渋いも味のうち」は、癖をただ消して均一な味にするのではなく、ほどよく残された特徴こそが、食べ物の個性になると教えることわざです。素材本来の味を尊重してきた、料理の知恵が込められています。
「えぐい渋いも味のうち」の使い方




「えぐい渋いも味のうち」の例文
- 祖母は、山菜の灰汁を抜きすぎると風味が消えると言い、えぐい渋いも味のうちと教えた。
- えぐい渋いも味のうちとはいうものの、喉を強く刺激するほどのえぐみは取り除く必要がある。
- 茶のわずかな渋みを大切にする職人は、えぐい渋いも味のうちという考えを守っている。
- 料理長は、野草らしい風味を残すため、えぐい渋いも味のうちと考えて下ごしらえを加減した。
- えぐい渋いも味のうちだからと、父は里芋の持ち味が失われない程度に灰汁を抜いた。
- 新商品の野菜飲料は、えぐい渋いも味のうちという方針で、素材の癖をわずかに残して仕上げた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・源順編『和名類聚抄』934年ごろ。
・橘南谿『西遊記』正編・続編、1795〜1798年。























