【ことわざ】
江戸っ子は五月の鯉の吹き流し
【読み方】
えどっこはさつきのこいのふきながし
【意味】
江戸っ子は言葉遣いは荒っぽいが、気持ちはさっぱりしていて物事にこだわらない、ということ。また、口先ばかりで本当の胆力にとぼしい、という意味にも用いる。


【英語】
・His bark is worse than his bite(言葉はきついが、実際にはそれほど害がない)
【類義語】
・江戸っ子は五月の鯉で口ばかり(えどっこはさつきのこいでくちばかり)
【対義語】
・腹に一物(はらにいちもつ)
「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」の語源・由来
このことわざは、五月の節供(せっく)に立てる鯉幟(こいのぼり)の姿を、江戸っ子の気質に重ねた言い方です。鯉幟は「鯉の吹流し」ともいい、端午(たんご)の節供に男児の出世や健康を願って立てる飾りです。
鯉幟は、紙または布で大きな鯉の形に作ったものです。風を受けると空を泳ぐように見えますが、内側は空洞で、腹の中には何もありません。
この形から、「五月の鯉の吹流し」は、腹の中がさっぱりしていて、少しのわだかまりもない様子を表す言葉になりました。見た目には大きく勢いがあっても、内側にはこだわりをため込まない、というたとえです。
鯉幟そのものは、江戸時代の端午の節供と深く関わっています。江戸時代、菖蒲(しょうぶ)が「尚武(しょうぶ)」に通じることから、武家では家紋をしるした旗差物、幟(のぼり)、吹流しなどを玄関前に並べる風習が広まりました。
やがて江戸中期以後には、町人層のあいだでも、武具のかわりに戸外へ鯉幟を立てる風習が生まれました。鯉は中国の竜門伝説により、困難を越えて立身出世するものの象徴とされ、端午の節供の飾りとして親しまれるようになりました。
「江戸っ子」という呼び名は、江戸で生まれ育った人、とくに町人の気質を表す言葉として広まりました。明和8年(1771年・江戸時代中期)の『川柳評万句合』に「江戸っ子」の古い用例があり、江戸中期の繁栄とともに、その気風や誇りを表す言葉として定着していきました。
江戸っ子の気質には、物事にこだわらず、意地と張りを大切にする一方、短気で軽率と見られる面もありました。このことわざは、そうした江戸っ子像のうち、言葉の勢いと腹の中のさっぱりした性質を、鯉の吹流しの形で分かりやすく言い表したものです。
古い用例として、落語『厩焼失』(1890年、初代三遊亭遊三)に「江戸ッ子は皐月の鯉の吹流し、口先ばかり腸はなし」とあります。ここでは、売り言葉に買い言葉で強く言っても、腹の中に深い悪意をためているわけではない、という文脈で使われています。
「皐月(さつき)」は五月の異称で、「腸(はらわた)はなし」は、鯉の吹流しの腹が空洞であることを受けた言い方です。つまり、口先は勢いよく動いても、腹の中には恨みやわだかまりがない、という比喩になっています。
ただし、このことわざにはよい意味だけでなく、皮肉な意味もあります。口では威勢のよいことを言うが、本当の胆力にはとぼしい、という意味にも用いられ、同じ「口先ばかり」という発想が、さっぱりした気性をほめる場合と、意気地のなさをからかう場合の両方に働いています。
現在の「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」は、主に、口調は荒いが根に持たず、気性がさっぱりしている人をいうことわざとして使われます。五月の空を泳ぐ鯉の吹流しのように、勢いはあっても腹にこだわりを残さない、という姿が、この言葉の芯にあります。
「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」の使い方




「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」の例文
- 近所の魚屋の親方は、江戸っ子は五月の鯉の吹き流しで、叱ったあとにはもう笑っている。
- 江戸っ子は五月の鯉の吹き流しというように、祖父は口は荒いが、困った人を見るとすぐ手を貸す。
- 会議では厳しい言い方をした部長も、江戸っ子は五月の鯉の吹き流しで、あとに不満を残さなかった。
- 江戸っ子は五月の鯉の吹き流しそのもので、友人は言い合いのあともすぐ普段どおりに話しかけてきた。
- 威勢のよいことを言うだけでは、江戸っ子は五月の鯉の吹き流しの悪い意味で受け取られることもある。
- 江戸っ子は五月の鯉の吹き流しとは、口の勢いと腹の中のさっぱりした気性を対照的に表すことわざだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1994年。
・Cambridge University Press『Cambridge Academic Content Dictionary』Cambridge University Press、2008年。























