【ことわざ】
遠慮ひだるし伊達寒し
【読み方】
えんりょひだるしだてさむし
【意味】
遠慮や見栄も度が過ぎると、自分がつらい思いをするということ。ごちそうを遠慮すればひもじくなり、格好を気にして薄着をすれば寒くなる、というたとえ。


【英語】
・Pride feels no pain(見栄を張る人は苦痛を気にしない)
・Too much courtesy is discourtesy(礼儀も度が過ぎれば、かえって非礼になる)
【類義語】
・伊達の薄着(だてのうすぎ)
・遠慮は無沙汰(えんりょはぶさた)
・過ぎたるは猶及ばざるが如し(すぎたるはなおおよばざるがごとし)
【対義語】
・名を棄てて実を取る(なをすててじつをとる)
「遠慮ひだるし伊達寒し」の語源・由来
「遠慮ひだるし伊達寒し」は、遠慮しすぎることと、見た目を気にして無理をすることを、二つ並べて戒めることわざです。遠慮が過ぎると、ごちそうを前にしても手を出せず、ひもじい思いをし、伊達を気取って薄着でいると、寒い思いをする、という具体的な生活感覚から成り立っています。
このことわざの「遠慮」は、人に対して言葉や行動を慎み控えることを表します。「遠慮」には、もとは遠い将来まで見通して考えるという意味もありますが、ここでは、人前で出しゃばらないように控える意味で使われています。
「ひだるし」は、現在の「ひだるい」の文語形で、空腹である、飢えてひもじい、という意味です。『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』(1254年・鎌倉時代中期、橘成季編)には、「この一両日食物(じきもの)絶えて、術(せん)なくひだるく候ままに」という用例があり、食べ物がなくてひもじい状態を表しています。
「伊達」は、人目を引く派手な服装やふるまいをすること、また見えを張ることを表します。古くは、人目を引くようなふるまいをする意味や、外見を飾る意味で使われ、近世には「伊達をする」という形も見られます。
ことわざの後半にある「伊達寒し」は、「伊達の薄着」と深くつながっています。「伊達の薄着」は、着ぶくれして格好が悪くなるのを嫌い、寒いときにもわざと薄着をすることです。
「伊達の薄着」の古い用例として、俳諧『伊勢踊』(1668年・江戸時代前期)に「けふよりはたての薄着か御夏女郎〈三好〉」という句が出てきます。寒さや季節の実用よりも、見た目を重んじる態度を「伊達」と結びつける発想が、江戸時代前期にはすでに言葉として用いられていました。
このことわざは、前半で「遠慮しすぎれば食べられず、腹が減る」と言い、後半で「伊達を気取れば薄着になり、寒くなる」と言います。どちらも、人目を気にするあまり、自分の体に直接つらさが返ってくる点が共通しています。
「遠慮」は、ほどよく働けば礼儀になります。しかし、食べてよい場面で食べず、助けを求めてよい場面で黙っていれば、相手への礼儀というより、自分を苦しめる我慢になります。
「伊達」も、ほどよく働けばしゃれた身なりや粋なふるまいになります。しかし、見た目ばかりを大事にして、寒さや不便さを無理にこらえるなら、それは見栄によるやせ我慢になります。
近い考えを表す「遠慮は無沙汰」は、遠慮が過ぎると、かえって礼を失うことを表します。また、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」は、何事もやりすぎれば足りないのと同じようによくないという意味を表します。
「遠慮ひだるし伊達寒し」は、遠慮や身だしなみそのものを否定する言葉ではありません。礼儀や見た目を大切にしながらも、度を越して自分を苦しめないようにという、日常に根ざした知恵を伝えることわざです。
現在では、食事の席で過度に遠慮する場面だけでなく、服装、発言、仕事、人づきあいなどにも使えます。人目を気にしすぎて必要なことを控えたり、無理をしてつらい思いをしたりする場面に、穏やかな戒めとして用いると意味がよく伝わります。
「遠慮ひだるし伊達寒し」の使い方




「遠慮ひだるし伊達寒し」の例文
- ごちそうを前にして何度も断っているうちに空腹になり、遠慮ひだるし伊達寒しを実感した。
- 真冬に薄い上着だけで出かけるのは、まさに遠慮ひだるし伊達寒しだ。
- 人前で格好をつけて助けを求めなかった結果、遠慮ひだるし伊達寒しの状態になった。
- すすめられた席に座らず立ち続けるのは、遠慮ひだるし伊達寒しというものだ。
- 見た目を気にして歩きにくい靴を履き続けた彼女は、遠慮ひだるし伊達寒しのように疲れきっていた。
- 必要なものまで断ってしまうなら、遠慮ひだるし伊達寒しで、かえって相手の気づかいを無駄にする。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・橘成季編『古今著聞集』1254年。
・『伊勢踊』1668年。
・David Crystal『As They Say in Zanzibar』Collins、2006年。























