【故事成語】
家に弊帚有り、之を千金に享る
【読み方】
いえにへいそうあり、これをせんきんにたっとぶ
【意味】
どんなにつまらない物でも、自分の持ち物であれば大切に思い、手放しにくいこと。古くから関わりのあるものを、ひいきして大事にすることのたとえ。


【英語】
・Even a worn-out broom is treasured at home(古びた物でも自分の家の物なら大切にされる)
・One values even a shabby possession dearly(つまらない持ち物でも大事に思う)
・People treasure their own old things(自分の古い持ち物を大切にする)
【類義語】
・弊帚自珍(へいそうじちん)
・敝帚千金(へいそうせんきん)
【対義語】
・隣の花は赤い(となりのはなはあかい)
・他人の飯は白い(たにんのめしはしろい)
「家に弊帚有り、之を千金に享る」の故事
この故事成語は、中国の歴史書『後漢書(ごかんじょ)』や『東観漢記(とうかんかんき)』に出てくる言葉です。今の日本語では少し難しく見えますが、たとえ古びた箒でも、自分の家にある物なら千金の値打ちがあるように思う、というたとえです。
ここでいう「弊帚」は、すり切れて古くなった箒のことです。ふつうに考えれば高い値段のつく品ではありませんが、自分の家の物となると、持ち主は別の思いを持ちます。
この言葉が出てくるのは、後漢の光武帝(こうぶてい)のころの話として伝わっています。『後漢書』皇后紀上には、光武帝が郭皇后の兄の郭況を手厚く扱った場面が書かれており、そのときに家にある古い箒でも千金のように大切にする、という意味の言葉が使われています。
この場面では、物の値段そのものを言っているのではありません。自分に近い者や、以前からの縁がある者には、理屈だけでは切れない思い入れがある、という人間の気持ちを表しています。
そこから、この言葉はしだいに、古くてつまらない物でも、自分の物であれば大事にすることのたとえとして広く使われるようになりました。さらに、物だけでなく、古くからの関係や、自分にゆかりのある人や作品をひいきする気持ちにも重ねられるようになります。
この故事成語の大事な点は、ほんとうに値打ちが高いかどうかではありません。持ち主の心の中では、とても大事だから高い物のように思える、というところに意味があります。
そのため、ほめ言葉として使う場合もあれば、少し身びいきが強いという気持ちをこめて使う場合もあります。たとえば、自分の古い道具を人が思う以上に大切にしているときにも使えますし、自分の身内や自分の作品を必要以上に高く見る気持ちを言うときにも合います。
ただし、この故事成語は、古い物を大切にする心そのものを笑う言葉ではありません。長く使った物や、長い時間をともにしたものには、値段だけでは量れない思い出や愛着が宿る、という人間らしい感情もちゃんと含んでいます。
また、もともとの中国の文では「享」の字が使われていますが、ここでは大事にし、重く見る気持ちがこめられています。むずかしい字づらに見えても、言いたいことは、自分の物は他人が思う以上に惜しい、というとても身近な心の動きです。
今の日本語では、ふだんの会話でそのまま言うことはあまり多くありません。けれども、古い故事成語として知っておくと、なぜ人が古い品を捨てにくいのか、なぜ自分に近いものをひいきしてしまうのかが、よく分かります。
だから家に弊帚有り、之を千金に享るは、値段ではなく愛着の重さを言い表す故事成語です。そして同時に、人は自分に関わる物や人を、つい特別に大切に思ってしまうものだという、昔も今も変わらない気持ちを伝える言葉なのです。
「家に弊帚有り、之を千金に享る」の使い方




「家に弊帚有り、之を千金に享る」の例文
- 祖父は欠けた湯のみを見ながら、家に弊帚有り、之を千金に享るという思いで手放さなかった。
- 学級文庫の古いしおりを大切にしまう友だちを見て、家に弊帚有り、之を千金に享るという言葉が浮かんだ。
- 父は学生時代のすり切れた野球のグローブにも、家に弊帚有り、之を千金に享るような愛着を持っている。
- 町の展示会で自分の作った木の皿を何度も見直す姿には、家に弊帚有り、之を千金に享る気持ちがにじんでいた。
- 長年使った道具を新しい物にかえない職人の姿は、家に弊帚有り、之を千金に享るの一例である。
- 自分の企画だけを必要以上によく見せる態度には、家に弊帚有り、之を千金に享る面がある。























