【ことわざ】
医者上手にかかり下手
【読み方】
いしゃじょうずにかかりべた
【意味】
物事をうまく進めるには、相手を信用することが大切だというたとえ。どんな名医でも、患者が信頼して従わなければ病気は治らないという意からいう。


【英語】
・doctor’s orders(医師の指示、医師に言われたことに従うこと)
【類義語】
・医を信ぜざれば病癒えず(いをしんぜざればやまいいえず)
【対義語】
・聞く耳を持たない(きくみみをもたない)
「医者上手にかかり下手」の語源・由来
「医者上手にかかり下手」は、中国古典の一つの故事からそのまま生まれた言葉ではなく、医者と患者の関係をもとにした日本のことわざです。病気を治す側にすぐれた力があっても、治される側が信頼せず、言いつけを守らなければ、治療の効果は出にくいという考えが中心にあります。
このことわざの「医者上手」は、腕のよい医者、つまり治療する側に力があることを表します。一方の「かかり下手」は、医者にかかる患者の側が、話をきちんと伝えなかったり、指示に従わなかったりして、治療を受ける態度がよくないことを表します。
「上手」と「下手」を並べることで、治療する側の能力と、治療を受ける側の態度を対照的に示しています。つまり、このことわざは「よい相手に出会えばそれで十分」という話ではなく、相手を信じて協力する受け手の姿勢まで含めて、物事は成り立つという教えです。
もとの場面は医療です。どんな名医であっても、患者が医者を疑い、薬を飲まなかったり、養生を守らなかったりすれば、病気は治りにくくなります。ここから、相手の力を生かすには、こちらにも信頼して任せる態度が必要だという意味へ広がりました。
医者を信じることと病の治りにくさを結びつける考え方は、古い医学観にも通じます。『史記(しき)』(前漢、司馬遷著)の「扁鵲伝(へんじゃくでん)」には、名医として知られる扁鵲(へんじゃく)に関する話があり、病が治りにくい六つの理由の一つとして、巫(みこ:神がかりやまじないに関わる者)を信じて医を信じないことが挙げられています。
この古い考え方は、「医者上手にかかり下手」と同じ発想を持っています。すなわち、治療する側の知識や技術だけでなく、患者が正しく受け止め、必要なことを任せる姿勢も、治療の成り行きに深く関わるという見方です。
ただし、「医者上手にかかり下手」という形そのものは、漢籍の句をそのまま移した故事成語ではありません。日本語としては、「医者」と「かかる」という日常の言葉を使い、「上手」と「下手」を組み合わせて、分かりやすい生活の知恵にしたことわざです。
このことわざには、病気のときに医者を盲目的に信じればよい、という意味だけがあるのではありません。症状を正直に伝え、説明を聞き、納得したうえで治療や養生に協力することが、よい結果につながるという考え方が含まれています。
そこから、医療以外の場面にも意味が広がりました。先生に教わる、職人に仕事を任せる、専門家に相談する、仲間と協力して物事を進めるといった場面でも、相手を疑ってばかりでは、せっかくの力を生かしにくくなります。
現在では、相手の力を信じて任せること、また自分も協力することの大切さを述べることわざとして用いられます。人に任せる場面で不安になる気持ちは自然ですが、このことわざは、疑うばかりでなく、相手の役割を尊重して力を合わせることが大切だと教えています。
「医者上手にかかり下手」の使い方




「医者上手にかかり下手」の例文
- 名医に診てもらっても薬を飲まないのでは、医者上手にかかり下手というものだ。
- 先生の助言を疑って何も直さないままでは、医者上手にかかり下手と同じことになる。
- 治療の説明をよく聞かずに自己判断でやめてしまうのは、まさに医者上手にかかり下手だ。
- 経験豊かな職人に修理を頼んだのに、横から口を出してばかりでは医者上手にかかり下手になる。
- 勉強法を相談したなら、まずは先生の指示を守らなければ、医者上手にかかり下手になりかねない。
- 専門家に任せる場面では、医者上手にかかり下手にならないよう、必要な情報をきちんと伝えることが大切だ。
主な参考文献
・現代言語研究会著『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・司馬遷『史記』前漢。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press。























